Case:相模鉄道「相鉄都心直通記念ムービー|100 YEARS TRAIN」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブ事例の裏側を、担当者へのインタビューを通し明らかにする連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、昨年11月30日、相模鉄道(以下「相鉄」)とJR東日本の直通線開業により、相互乗り入れがスタートしたことを記念し公開された「相鉄都心直通記念ムービー|100 YEARS TRAIN」を取り上げます。

このムービーは、二階堂ふみ・染谷将太主演。大正・昭和・平成・令和を舞台に、「つながる」をテーマにそれぞれの時代の恋のストーリーを描いたもの。またムービ ー内では、くるり「ばらの花」、サカナクション「ネイティブダンサー」の2つの既存曲をマッシュアップした楽曲を使用。ムービーはYouTubeで現在260万超再生とネット上で話題に。

さらに、この「都心直通」のタイミングで様々なPR展開を実施し、都内での認知度アップに向けて動いていったといいます。今回は、ムービー製作の狙いと、どのようなPR展開をし、どのような点を重視していったのか、相鉄グループ広報・PR担当(相鉄ビジネスサービス株式会社 総務広報担当) 係長 飛川和範さん、竹下晶子さんにうかがいました。

「直通」にちなみ「つながる」ことをイメージ

―まず、「相鉄都心直通記念ムービー|100 YEARS TRAIN」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

飛川:
これは「SOTETSUあしたをつくるPROJECT」の一環として取り組んだ施策です。このプロジェクトは、今回のJR東日本さまとの直通運転と2022年度下期に予定している東急電鉄さまとの直通運転に向け、さまざまな仕掛けで認知度を上げ、最終的には相鉄線沿線に住んでもらおうという目的で行っています。
相鉄は今まで神奈川県のみでの運行で、都内では4割程度の認知しかない(2018年9月調査)状況でしたので、鉄道会社各社さんが沿線への住み替え需要を競う中で、我々も知ってもらわなければいけないという課題意識からスタートしました。

―鉄道と恋愛というテーマは、過去にはJR東海の「クリスマス・エクスプレス」などもありましたが、日々の通勤電車の中でという点が新鮮でした。

飛川:
「直通運転」ということで「つながる」というテーマをイメージしました。鉄道会社は、日々さまざまな乗客の方との出会い・別れを繰り返し、色々な人とつながっているものです。沿線の方や沿線以外の方とも、心をつなげたいという思いで制作しました。

―大正・昭和・平成・令和とさまざまな時代を再現しています。再現にあたってはどのような点にこだわったのでしょうか。

飛川:
メインのお二方以外の登場人物の関係性も、時代ごとによって、最初は付き合いはじめていたり、令和では女性が妊娠していたりと変化しています。小道具も、大正時代は書物・昭和では新聞・平成では漫画雑誌・令和ではタブレットなどと、時代を反映するものを入れています。また、舞台になる車両は大正・昭和のものは現存していないので、車両の担当者に図面や資料、写真を倉庫から探し出してもらい、それを元にセットを再現しました。ムービー内で流れるテーマソングも2曲の楽曲をマッシュアップしたという点で、「つながる」ことを表現しています。
直近では、ムービーで使用したマッシュアップ曲「ばらの花 × ネイティブダンサー」をクリスマスに合わせて配信リリースしました。また、ムービーに使用したセットも新駅の羽沢横浜国大駅に展示しており、昨今のインスタ映えを考慮してフォトスポットのような形に改良しました。実際に着席して写真を撮ることができます(3月31日まで)。

沿線外からの反響はもちろん、沿線からの応援の声も

―ムービーの反響は予想通りでしたでしょうか?また、印象に残った反応・感想はありますか?

飛川:
予想より大きいです。沿線外の方から「住んでみたい」「興味を持った」などといった反応をいただき、まさに我々が目指している「住んでいただく」というところに近い反応でした。狙い通りではありますが、ここまで反響が大きくなるとは思っていませんでした。

竹下:
Twitter上では「俺たちの相鉄」という言葉を多く見かけ、沿線の方々からの応援にお応えすることができて嬉しかったです。「通学で好きな人と一緒に帰る電車が相鉄線だったので、懐かしかった」「見ていて切なくなった」などといったムービーへの共感の声も多くいただきました。

飛川:
沿線の方の愛を感じる機会にもなりました。普段はご意見をいただくことが多いお客様センター経由でも、お褒めの言葉を数多くいただいています。

竹下:
毎日、お客さまから何かしらの声が届いています。こういった企業広告を作った時に、一般の方から「ありがとうございます」とお礼を言われることは実はあまりないので、最初はびっくりしました。沿線の方からの「とてもかっこよく作ってもらえて誇らしい」「住んでいたことを誇らしく思う」という言葉はうれしかったですね。

話題を最大化すべく、広告とパブリシティ両面で展開

―今回の直通開始のタイミングで、ムービーはもちろんさまざまな形でSNSやメディアで相鉄が話題になっている印象を受けました。どのような仕掛けを行っていったのでしょうか?

飛川:
広告ではJR東日本さまと共同で車内広告、駅貼り広告、特殊広告を展開しました。また崎陽軒さま、横浜ビールさま、山崎製パンさまのパンやカステラなど、色々なな企業ともコラボレーションをして商品を開発しました。
沿線の名店の掘り起こしや誘致を行う取り組み「相鉄沿線名店プロジェクト」では、乗り入れ先の一つである新宿でイベントを行いました。相鉄線いずみ中央駅の近くにイタリアンレストランを誘致しましたが、実はシェフが以前修行していたお店が新宿高島屋さまにあるということで、ストーリー的にも良いなと。
パブリシティも、普段は取材依頼を受けてから対応することが多いですが、相互直通運転が露出を図る最大のチャンスと考えて積極的に番組に売り込み、「タモリ倶楽部」のようなバラエティ番組の取材誘致にも成功しました。
このタイミングで話題を最大化すべく、まさに広告とパブリシティ両面で展開していきました。

竹下:
例えば、崎陽軒さんとコラボレーションした「お祝い」がテーマの紅白弁当は、販売後すぐ売り切れたのですが、それを買ってくださった方々の反応を見ていると、「記念に」「お祝いに」などと当社の想いに寄り添ってくださるようなもので、企画一つをとっても皆さまに喜んでいただけてやりがいがありました。横浜ビールも、実は沿線の瀬谷で生産された小麦を使っているといったように、意外にも横浜は地産地消の食材が多いんです。今後も、新たな横浜の魅力を発信していくことができたらと思います。

―パブリシティで意識したのはどういった点でしょうか。

飛川:
テレビは「初」という情報を好まれますよね。そのため、開業前の駅や運行前の車両など、PRネタが多くあったので積極的に押し出しました。例えば、JR東日本の広報さまにご協力いただいて、車両が新宿に初めて乗り入れる時に新宿駅で報道公開をしたり、回送電車を一本仕立てて報道向けの試乗会を行ったりしました。
また、並行して『相鉄 新型車両「12000系」新宿駅初入線前面展望ムービー』や新宿駅から西谷駅までの前面展望ムービーをYouTubeで公開し、37万超の再生と、こちらも好評をいただきました。

竹下:
最初は鉄道好きの方をターゲットにした活動から始めて、続いてデザインへの興味がある方向け、(一般消費者向けの)コラボ商品…などと、開業までの約半年間、段階的に情報を広げていき、最後は「相鉄都心直通記念ムービー|100 YEARS TRAIN」で話題を高めていきました。
このムービー自体にも、色々な面で話題になるように出演者、音楽、鉄道車両などさまざまなファクトを入れました。SNSを見ていてもさまざまな視点での評価をいただいていると感じます。

「ホームでスマホを向けていただく」車両自体も広告塔に

―Twitterでは、相模鉄道キャラクター「そうにゃん」が車両の運転席に乗っているという点も話題になっていました。

飛川:
工場で車両が完成した後、貨物列車と同じような形で輸送してくる甲種輸送というものがあります。この時電車は自走出来ないので、電気機関車が牽引する形なのですが、その際に「そうにゃん」を12000系の運転席に乗せました。
この直通用車両「12000系」は、車体を「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマ ネイビーブルー)」という濃紺一色にして、車両自体が広告塔となるようなカラーリングにしています。この塗色は駅や制服、車両を統一したコンセプトでリニューアルする「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」の一環で進めてきたものです。一般的に、電車の車体は銀色が多い中、全体に塗装して都心に乗り入れていくと「あの電車はなんだ」と知ってもらえるきっかけにもなっています。

竹下:
直通運転開始から一ヶ月以上経っても、都心の駅のホームでスマートフォンを向けている方が多いですね。

飛川:
12000系の前に登場した20000系(東急直通線用車両。現在は、相鉄線内を運行)も似たようなデザインで、これが出た時に「イケメン電車」と言っていただき、女性の方も写真を撮ったりしているような光景に驚きました。これら新型車両は、車内の照明も時間によって切り替わるなど、車内も随所に工夫をこらしています。

広告一辺倒ではなく「自分たちで汗をかけばなんとか形になる」

―今後も、やはりさまざまな外部の企業と取り組んでいくのでしょうか?

飛川:
チャンスがあればさまざまなご協力を得ながら取り組んでいきたいと思います。また、広告出稿一辺倒では費用もかさみますし、パブリシティは自分たちで汗をかけばなんとか形になります。また、社内でも社員がテレビに出て家族が喜ぶというインナーコミュニケーション効果があり、また露出が増えることで人材獲得にもつながっていくと思います。今後も色々と仕掛けていけたらと思います。

竹下:
「都内ではない」ことに強みとチャンスがあると思っています。地元から離れても横浜を愛する人はとても多いので、協力をしていただけるのかなと思いますし、都心からも近くて住みやすい「地元」をみんなで盛り上げていくことができたらいいなと思います。他路線のように観光資源がある沿線ではないからこそ、沿線の方のご協力も得ながら価値向上に取り組んでいきたいです。

飛川:
2022年度下期には東急さまとの乗り入れも控えていますので、今回の施策のいいところ悪いところを精査して、認知度を高めていきたいなと思っています。


相鉄グループ 飛川和範さん(左)、竹下晶子さん(右)