Case: 伊勢半「顔採用」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、株式会社伊勢半の「顔採用」を取り上げます。「ヒロインメイク」「キスミー フェルム」などの化粧品ブランドを展開する伊勢半は、2019年3月1日より解禁される2020年新卒採用において、学生の個性の表現を推奨する採用制度「顔採用」を導入しました。このプロジェクトに込めたのは、「就活メイクで自分を偽ることなく、自分らしい見せ方で、面接に来ていただきたい」という伊勢半の思い。「顔採用」はコーポレートブランドKISSMEのメッセージ「私らしさを、愛せるひとへ。」を体現する取組みでもあります。

就職活動におけるメイクや服装の不自由からの解放を目指した伊勢半の「顔採用」では、「私らしさ」を表現した写真や動画をInstagramに投稿することでエントリーが可能。3月1日に「顔採用」の新聞広告を出稿すると、Twitterで話題となり、学生にとどまらず、多くの方々から共感の声が集まりました。

今回のアイデアが生まれた経緯や今後の展開について、株式会社伊勢半 デジタルマーケティング・広報宣伝部 部長 大町龍さん、デジタルマーケティング・広報宣伝部 課長 松本智子さん、株式会社電通 クリエーティブディレクター 吉川隼太さん、コピーライター 福岡万里子さんにお話をうかがいました。

就活にも「私らしさ」を。就活全体が変わるきっかけになってほしい

―「顔採用」プロジェクトが生まれた経緯を教えてください。

吉川:ブランドメッセージ「私らしさを、愛せるひとへ。」にあるように、KISSMEは「私らしさ」を応援するコスメブランドです。「顔採用」は、このブランドの思想を伝えるコミュニケーション活動のひとつという位置付けです。
メイクや服装についての不自由は、就活市場において特に顕著です。就活中はリクルートスーツを着るべき、就活メイクはこうするべきなど、個性を表現することが許されないのが現状です。不自由さのある就活を変え、伊勢半が「顔採用」を通して「私らしさ」を肯定する活動は、ブランドにとって意味のあることだと考えプロジェクトがスタートしました。

大町:リクルートスーツや就活メイクによって、企業が望む姿に自分を合わせ、本来の自分を表現できずに面接に挑んでいる学生さんがたくさんいると思います。化粧品の会社として社会全体にメッセージを投げることで、就活全体が変わるかもしれない。そのきっかけになればと思いました。
最初にご提案いただいてから、炎上リスクに対する議論はずっとありましたが、最終的にはブランドメッセージとぴったり合っていて、企業の姿勢も伝えられる、メイクの会社だからこそ伝えられる価値があると判断し「顔採用」をスタートさせました。

―最初から採用に関わるプロジェクトと決めていたのですか?

大町:アイデアを出す段階では、採用に限定していませんでした。KISSMEブランドを体現するプロジェクトと考えたときに、就活における「私らしさ」に言及することがブランドとして伝えたいことと一致したんです。

革新を求める企業のDNAのもと、今の時代に伝えたいメッセージ

―伊勢半の持つ企業カルチャーも、この企画に大きく関係しているのでしょうか?

大町:はい。伊勢半は、創業190年以上の老舗化粧品メーカーとして、常に新しいことへチャレンジし、社会的にメッセージを投げかけたり、世の中に必要とされるブランドを作ろうと挑戦してきました。この革新を求める精神は会社全体に根付いていると思います。
今ではもうドラッグストアなどで当たり前になっているセルフ販売(棚にフックなどで化粧品が陳列されている販売形式)についても、業界で最初に取り入れたのは伊勢半でした。お客さまの自由意志で商品を選べるように販売形態を変えた取組みです。

吉川:1952年に化粧品会社で初めてカラーの新聞15段広告をしたのも伊勢半だと聞きました。革新や遊び心、「私らしさを、愛せるひとへ。」の思想がDNAに埋め込まれている企業だと思います。そのDNAが、現代の就活の領域でのプロジェクトにつながりました。

―今回のプロジェクトでは、「顔採用」というコピーのインパクトがやはり大きいですよね。

福岡:「顔採用」と聞いたときにどう伝わるのか、正しく伝えられるのか。ボディコピーでおさえるとしても、間違ったイメージを持たれる恐れがあったので、コピーは何度も検証しました。
「メイク採用」「個性採用」など、他にも考えてはいたのですが、「メイク採用」にすると男性を排除してしまう。「個性採用」にすると、目立っていればいいととらえられてしまうかもしれない。いろいろと検証した結果、「顔採用」が伝えたいメッセージに一番ぴったりでした。男女問わず、どんなメイクをしてもいいと象徴するような化粧品会社らしい言葉だと行き着きました。

―クリエイティブの制作面で気を配ったところ、工夫されたところはありますか?

福岡:伊勢半としての姿勢を丁寧にお伝えすることはもちろんですが、就活生にいかに寄り添うか意識しました。当然のことではありますが。特に「顔採用」という一見強い言葉を置いているからこそ、傷つく人が出ないように、言い回し一つ一つに細心の注意を払いました。

吉川:「顔採用」という言葉からネガティブイメージが出ないように気を付けました。「顔採用」というと、どうしても女性を対象にしているイメージに寄ってしまうので、男性もメイクをしていいし、採用を受けてもいいときちんと伝えることを意識しました。「顔採用」のサイトでは、「性別は問いません」と明記しています。

松本:新聞のコピー内の「すっぴん」「ノーメイク」という言葉においても、「私らしさ」を表現する一番の方法がすっぴんであれば、それがいいと伝えたことに伊勢半らしさが出ていると思います。この言葉がなければ、メイクの会社の採用で、好きなメイクで来てくださいというと、派手なメイクがいいのかなと考える人が多かったと思います。実際、社内にはすっぴんに近い人も結構いるんです。社内状況に即した表現になっていると思います。

「顔採用」のメッセージが共感を呼び、46,000リツイート

―リリース後、SNSなどで大きな話題となりましたね。

大町:想像していたよりもずっと大きな反響をいただき、肯定的に捉えてくださった印象でした。「よくやってくれた」など、応援コメントが多かったのがうれしかったです。「伊勢半は知らなかったけど、『ヒロインメイク』の会社なんだね」と反応している方もいました。最終的に、展開しているブランドに紐付いていく理想的なかたちになったと思います。

吉川:意見を出してくれる人たちは、内容をきちんと理解してくれている感じがして、意外でした。
3月1日(金)に新聞広告を出稿し、3日目くらいにツイート数が急激に上がってきました。
「顔採用」にまつわる一般女性のツイートが起点となり、リツイート数が約46,000にのぼりました。

松本:Twitterで話題になり、Yahoo!トピックス、NHKなどのテレビでも取り上げていただき、さらに反響が大きくなりました。

一般採用の応募数が昨年の2倍に!

―採用の応募数にも影響はありましたか?

松本:想像を遙かに超える数の応募をいただきました。応募いただいた内容も、どれも本当に強い思いが感じられ、読み応えがあり甲乙つけがたいものばかりでした。「顔採用」だけではなく、一般採用の応募数も増え昨年の約2倍になりました。「顔採用」が少なからず影響していると思います。

大町:ポータルサイト経由で採用活動を行う総合職の説明会はすでに4回実施しており、そこでも、学生さんたちの様子に少し変化がありました。昨年も「リクルートスーツ着用の必要はありません」とお伝えしていたのですが、やはりリクルートスーツ着用の方がほとんどでした。しかし、今年は総合職の採用の際にも、リクルートスーツではない方がたくさんいらっしゃったんです。少なからず学生さんの意識に影響しているようです。やはり、服装が違うと採用する側が受け取る印象が全然違いますし、学生さんも自己アピールがしやすいと思います。

(顔採用 会社説明会の様子)

松本:明るめの髪色の学生さんも多く、ヘアカラーはメイクやリクルートスーツとは違って、その日だけ変えられるものではないですよね。取って付けたようにその日だけ私服で来たわけではなく、私たちが発信したメッセージに反応して募集してくれたのだと感じました。一般採用にもいい影響が広がっているのが分かり、うれしくなりました。
今回は、採用に関わる施策でしたが、「私らしさを、愛するひとへ。」を体現する活動はこれからもずっと発信し続けていきたいと考えています。


(写真左から)株式会社伊勢半 デジタルマーケティング・広報宣伝部 部長 大町龍さん、デジタルマーケティング・広報宣伝部 課長 松本智子さん、株式会社電通 コピーライター 福岡万里子さん、クリエーティブ・ディレクター 吉川隼太さん