Case: PARA PINGPONG TABLE

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、日本肢体不自由者卓球協会(通称:パラ卓球協会)が発表した「PARA PINGPONG TABLE カタチにとらわれない卓球台」(以下、パラ卓球台)を取り上げます。パラ卓球は、一人ひとり異なる障がいを抱え、プレースタイルもそれぞれ異なる選手同士が対戦するスポーツ。そのおもしろさを伝えるため作られたのが、パラ卓球選手20名へのインタビューにより可視化された選手の障がいにより形が異なるパラ卓球台です。

パラ卓球台のプロデュースを手がけたTBWA\HAKUHODOのチームは、障がいによって卓球台の見え方・感じ方も変わる点に着目。パラ卓球選手それぞれの卓球台の見え方をデザインし、2020東京 オリンピック・パラリンピックの公式卓球台にも決まっている三英の協力によって、3種のパラ卓球台を製作しました。

今回のアイデアに至った経緯や今後の展開について、TBWA\HAKUHODO シニアクリエイティブディレクター 浅井雅也さん、アートディレクター 木村洋さん、アートディレクター 松田健志さん、PRプラナー 橋本恭輔さん、コピーライター 大石将平さん、プロデューサー 斎藤竜太郎さん、映像ディレクター 阿部慎利さんにお話をうかがいました。

Interview & Text : まきだ まどか

自分の障がいと向き合い、相手の弱点を突くプレーをするのがパラ卓球の面白さ

―今回の企画が立ち上がった経緯について教えてください。

浅井:クライアントである日本肢体不自由者卓球協会から、パラリンピックを来年に控え、パラ卓球のファンを1人でも増やしたいと依頼を受けました。
ニールセンによる調査によると、日本でパラスポーツを観戦したことのある人は1%しかいないそうです。テレビで放送されることはなく、会場に来てくれる人もほとんどいないパラ卓球の現状を変え、人々が注目するようなスポーツにしたいとご相談をいただきました。
そこで、リブランディングプロジェクトとして、公式HP、ポスター、リーフレット、名刺などを制作。選手の名刺には、パラ卓球台をモチーフに使い、障がいによって一人ひとり異なるデザインに仕上げました。ポスター制作では、パラ卓球選手たちのかっこいい写真を撮ることで、選手たちにスポットライトを当てることを意識しました。

―実際に卓球台を作ると決めたのは、その後なんですね。

浅井:ポスターなどを制作するうちに、実際に卓球台として形にしたいと考え、2020東京 オリンピック・パラリンピックの公式卓球台を製作する三英に協力をお願いしました。

―卓球台を変形させて、パラ卓球選手の見えている世界を表現するアイデアはどういった経緯で生まれたのですか?

木村:日本代表のパラ卓球選手20人へのインタビューを通して、パラ卓球は相手の弱点を攻めるスポーツだと知りました。卑怯なように思えるかもしれませんが、弱点を攻めるのは、相手に敬意を示している証拠。ネット際に手が届かない車いすの選手に対しては、ネット際を狙い、自分の打たれたくない場所に打たせないようにするなど戦略的なスポーツなんです。
インタビューで話を聞くうちに、もしかすると、パラ卓球選手には、僕たちが認識している卓球台とは違う世界が見えているのではないかと考え、パラ卓球台のアイデアにつながりました。

浅井:パラ卓球選手の障がいは多岐にわたり、例えば、右手に障がいがある人と左足に障がいがある人が対決することもあります。それぞれの弱点は異なり、見えている世界、プレースタイルも異なります。それぞれが自分の障がいと向き合い、相手の弱点を突くプレーをする。それがパラ卓球ならではのおもしろさなんです。

松田:選手20人に卓球台がどんな風に見えているかスケッチしたもらったところ、おもしろいことに、全員が違う形を描きました。車いすの茶田ゆきみ選手は、ネット際に手が届かないので、ネットまでが長く感じる。生まれつき両手が短い八木克勝選手は、手が届かないエリアを足を使って普通より大きく動き、そのエリアが円のように広く感じる。左足首を自分の意思で曲げられない岩渕幸洋選手は、左側への動きと左側からの戻りが遅い分左サイドが大きく遠く感じています。

メッセージを整理し、ワンビジュアルに落とし込む

―それぞれの見えている世界を卓球台に落とし込むのは想像以上に難しそうです。

大石:ひとつの台で、ワンメッセージ、ワンビジュアルに落とし込むのが大変でした。みなさんそれぞれ違った障がいがあり、プレースタイルも異なります。それらをすべてデザインに起こすと複雑になってしまいます。どんな形にすれば、その選手の障がいが伝わるかを考え、メッセージを整理していきました。

―スケッチしたパラ卓球台から、実際に3台を制作したそうですね。

浅井:規格外の卓球台のため、手作業で作っていただきました。三英さんの協力のもと、安全性はもちろん、クオリティもオリンピック・パラリンピックでも使用される国際基準を満たしたモデルに仕上がりました。

木村:どれくらいの長さ、大きさで設計すれば、パラ卓球選手の世界を体感できるのかを検証するため、自分たちで段ボールのプロトタイプを作ったりもしました。簡単に手が届く長さでは、パラ卓球選手のプレーの難しさを体験してもらうことはできないので、長さの設計が難しいポイントでした。

―これまでにどんな方々が体験しているのですか?

斎藤:11月下旬、東京・調布市で開催された「ParaFes 2018~UNLOCK YOURSELF~」のサブアリーナで体験会を行ったときには、若い世代の方々が体験してくれました。虎ノ門ヒルズの「PARA PINGPONG TABLE展」では、ビジネスマンが多かったです。小学校と中学校では特別授業も行っています。スポーツ庁長官の鈴木大地さん、渋谷区長の長谷部健さんにも実際にプレーしていただきました。

(写真提供:日本財団パラリンピックサポートセンター)

浅井:小学校の特別授業では、渡邉剛選手にも参加していただきました。対戦相手の小学生には丸くなっているサイドに立ってもらい、渡邉選手のボールを返してもらいます。渡邉選手はわざと手前に落として相手に取らせなくするため、小学生はボールを返すことができず、渡邉選手の技のすごさに驚きます。授業が終わる頃には、選手たちが小学生たちのヒーローになっていました。

パラ卓球台だから実現できるポジティブなパラスポーツ体験

―プレーして初めて気付くこともありそうですね。

浅井:パラ卓球は健常者卓球とは全く違った軸での勝負だと実感してもらえると思います。車いすの選手にとってのネット際のボールの意味や、パラ卓球選手ならでは技術のすごさを知り、パラ卓球の魅力に気付いて欲しいですね。
今までのパラスポーツ体験は、車いすに乗ったり、手を固定したりして、非日常の状況で体験するものでした。しかし、パラ卓球台はなんの拘束もなく、そのままの状態で全力でプレーできます。日常の延長にパラ体験があることで、ポジティブなメッセージを伝えることができるんです。

―できるだけたくさんの人に体験してもらうことが重要になってきそうですね。

橋本:パラ卓球台のよさは、実際に台に立ってもらうことで伝わると思います。僕たちのこらからの課題は、できるだけたくさんの人に卓球台に立ってもらう場を作ることです。今後も、大型ショッピングモールで体験会を行ったり、渋谷区庁での展示・体験会を行う予定です。これからパラリンピックに向けて、さらに体験の場を広げていければと思います。

浅井:パラ卓球台は、パラ卓球とは何かを表している普遍的な企画だと思います。まだ東京近郊でしかイベントを開催していないので、今後は、北海道から沖縄まで全国にパラ卓球の魅力を伝えるイベントを開催できたらと考えています。
さらに将来は、パラ卓球台をオープンソースにして、海外のパラ卓球選手の台を作りたいとパラ卓球協会の方と構想しています。世界中のパラ卓球選手の台を並べ、世界中で体験会が行われるようになったらいいですね。

木村:選手にインタビューの中で、卓球に出会っていなかったら、今どうなっていたか分からない。卓球に出会ったからこそ、働いたり、卓球に打ち込む今の自分がいると話してくれた選手がいました。
パラ卓球は、他のパラスポーツよりも、始めやすい競技だそうです。車いすでも、手や足が不自由でも、ラケットがあれば始められます。パラ卓球台をできるだけ多くの人に知ってもらい、健常者の方だけでなく、障がい者の方にもそのおもしろさを伝えることで、誰かの人生を変えるきっかけになるかもしれない。この企画にはそんな願いも込めています。


(写真左上から)
TBWA\HAKUHODO PRプラナー 橋本恭輔さん、シニアクリエイティブディレクター 浅井雅也さん、プロデューサー 斎藤竜太郎さん、映像ディレクター 阿部慎利さん
アートディレクター 松田健志さん、アートディレクター 木村洋さん、コピーライター 大石将平さん