Case: 日清食品『なぜどん兵衛⾁うどんは広告しなくても売れるのか?』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、日清食品「日清のどん兵衛」のデジタルプロモーションとして実施された架空のビジネス書「なぜどん兵衛⾁うどんは広告しなくても売れるのか?」を取り上げます。本企画の広告サイトが10月22日に公開され、併せて、本書についての交通広告が展開されました。今回の企画は、86年の発売以来、主に⻄⽇本で愛されてきた「日清のどん兵衛 ⾁うどん」初の広告施策。「きつねうどん」「天ぷらそば」に次ぐ “第三のどん兵衛” の地位確立を目指した広告展開となりました。

「なぜどん兵衛⾁うどんは広告しなくても売れるのか?」のアイデアに至った経緯、他事例も含めた日清食品のデジタル広告施策の特徴、バズを生み出すポイントについて、株式会社博報堂コミュニケーションプラナー小島翔太さん、コピーライター神林一馬さん、デザイナー小暮菜月さん、PRプラナー小渕朗人さんにお話をうかがいました。

Interview & Text : まきだ まどか

みんなが思っている「なんか変」がおもしろさにつながる

―どういった経緯で「なぜどん兵衛⾁うどんは広告しなくても売れるのか?」の企画がスタートしたのか教えてください。

小島:今回プロモーションを行った「どん兵衛⾁うどん」は、1986年に発売され、主に関西で販売されてきました。関西では、コンビニでも販売されているほどメジャーな商品ですが、関東では、大型スーパーなどでしか取り扱いがなく、関西に比べ、親しみの薄い商品でした。これまでほどんど広告をしてこなかったのですが、関西では売れ行きのよい商品でした。
「きつねうどん」と「天ぷらそば」に加え、第3のどん兵衛として「肉うどん」をプッシュしていきたいというオリエンを受け、「どん兵衛肉うどん」広告施策を実施することになりました。「日清のどん兵衛 肉うどん」が広告しなくても売れているということがストレートに伝わる案で、かつ、おもしろいものというオーダーでした。

―どんな思考を経て、「ビジネス書のパロディ」というアイデアに行き着いたのですか?

小島:「どん兵衛肉うどんは広告していないのに売れている」という事実が、何となくビジネス書っぽいと思い、「架空のビジネス書」という今回のアイデアにつながりました。
「○○すればすべてうまくいく」みたいなタイトルのビジネス書の広告をよく電車の中で目にしていて、もともと「なんか変だけどおもしろいな」と思っていました。そういった世の中の人が「なんか変、でもおもしろい」と思っていることを言ってあげることで、「ネタ」になり、おもしろさが生まれます。

―制作面で工夫されたことはありますか?

神林:細かなところまで小ネタを詰め込み、ディテールにこだわりました。架空のビジネス書ですが、著者のプロフィールまで細かく設定しています。著者は「Nick Juicy(ニック・ジューシィ)」で、出身大学は「ニクジューグッド⼯科⼤学」です。

小島:細かなところまで読んでくれる人は少ないかもしれませんが、読んでくれた人には「読んでよかった」と思ってもらいたい。裏切りたくないと思っているんです。

小暮:いくつかの出版社のビジネス書の広告を集めて、そのフォーマットを研究しました。読者の感想が掲載されていたり、タイトルが大きく載っていたり、グラフが大げさだったりといったつっこみどころのある小ネタをできるだけたくさん盛り込むことを意識しました。

―リリース後の反応はいかがでしたか?

小渕:本物のビジネス書の広告と見間違えた人もいたようです。電車でこの広告を見た人のツイートで「amazonで調べてしまった」というものもありました。

小島:今回の広告は、おもしろさの追求だけではなく、日清食品が伝えたいことをしっかり伝える必要がありました。そのため、通常の日清の広告に比べて、より広告っぽい企画になったと思います。SNSでは、「これはコンテンツマーケティングのお手本だ」という声もありました。

日清食品が目指すのは、まだ誰もやったことのないおもしろさ

―これまでもユニークな事例が多くある日清食品の広告ですが、広告制作に対するスタンスには、エージェンシーの立場から見るとどんな特徴があるとお考えですか?

小島:「おもしろい」が正義です。「もっとおもしろい企画を持ってきてください」といわれたのは日清食品が初めてだったかもしれません。日清食品に合うように、おもしろい企画を持って行っているのですが、「もっとおもしろく」「もっと壊してください」といってくださいます。そういったおもしろさをとことん追求する精神がずば抜けています。

小暮:とがった企画を持って行くと、通常は、「おもしろいけど、実現はできない」といわれることがほとんどですが、日清食品の場合は、「もっととがらせてください」と、さらなるおもしろさを求められます。他の企業とはおもしろさの基準値が違うんです。

―日清食品の「おもしろい」は、「話題になる」という意味でしょうか?

小島:基本的にはそうです。しかし、単純に「話題化」だけを基準に評価しているわけではないと思います。「そんなに話題にはならなかったけど、このアプローチは新しかった」というように、それまで誰もやったことのなかった新しさを高く評価する文化があります。日清食品が生み出した「即席麺」は、それまで世の中になかった新しいものです。そのDNAが広告制作においても息づいています

―これまでで特に話題になったものについて教えてください。

小渕:特に話題になったのは、高級マンション広告、いわゆる「マンションポエム」を「どん兵衛」の広告として再現した「どん兵衛ポエム」です。マンション広告が掲載されている媒体に「どん兵衛ポエム」を掲載したり、実際のマンション広告のようなチラシやポケットティッシュを制作し、配布しました。
その結果、SNSで大きな話題となり、不動産業界で働いている専門家の人たちからも「相当研究しているね」と絶賛していただきました。

小渕:パロディものこそ、クオリティにこだわらなければ反感を買ってしまうと思います。「どん兵衛ポエム」では、注釈の小さな文言にまでこだわり、クオリティを高めました。

おもしろさのツボを押さえ、まずは、自分たちが笑えるものを作る

―バズを生み出すことを課されたチームとして、企画を考案する上で大切にしていることを教えてください。

小島:当初、メンバーを集めるとときに、企画を一緒に楽しんで考えられるメンバーを集めていいといわれたので、普段から仲のいいメンバーを集めました。

小暮:チームメンバーは全員20代で、年齢が近く、フラットな関係です。仲がとてもよく、週に1度集まり、今日おもしろかったツイートを共有しています。全員がネット文脈に詳しいです。

神林:よくメンバー間で「これおもしろくない?」と自分がおもしろいと思ったものを共有しています。そういうとき、「分かる!おもしろい」といってくれる人がメンバーにいることが大事だと思います。
今はSNSが生まれたことによって、笑いのツボが変わりました。時代とともに笑いのツボは変化しますが、メンバー全員がそのツボを押さえているからこそ、バズにつながる企画を作り出せるのだと思います。企画を考案するときは、まず、自分たちが笑えるものを作ることを意識しています。

―今後、チャレンジしてみたいことはありますか?

小島:デジタル施策の成功例として日清食品の事例が挙げられるようになりました。いろいろな企業がネットでの話題化を目指し、世の中のあらゆるネタが掘り起こされています。みんながバズを求めて鉱脈を探す中、僕たちは他の誰も想定していなかったようなところで、新しい鉱脈を探し当てて、新しくておもしろいことを実現したいと思っています。



(左から)株式会社博報堂 PRプラナー 小渕朗人さん、コピーライター 神林一馬さん、コミュニケーションプラナー 小島翔太さん、デザイナー 小暮菜月さん