Case: 味の素AGF『わがしばなし』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、味の素AGF株式会社の「和菓子×歌舞伎×コーヒー」のコラボレーション企画について取り上げます。「日本の水が育てた珈琲」をキャッチフレーズにしたAGF®「煎」。日本の水と日本人の味覚に合うコーヒーとして、和菓子との新たな食のマッチングを提案しようとAGF®は「珈琲♡和菓子プロジェクト」を立ち上げました。

このプロジェクトの一環として、日本の伝統文化の革新者とコラボレーションし、和菓子の可能性を拡げる活動「WAGASHI-INNOVATION(ワガシイノベーション)」がスタート。第1弾として、歌舞伎の演目「勧進帳」を題材としたオリジナル和菓子「わがしばなし」が2018年1月に歌舞伎座にて限定発売されました。

新しい食文化の創造を目指す「珈琲♡和菓子プロジェクト」にかける思い、「わがしばなし」実現の舞台裏について、味の素AGF株式会社 事業戦略部 マネージャー 三浦優子さんに話を伺いました。

Interview & Text : まきだ まどか


「わがしばなし」

和菓子業界とコーヒー会社の異色コラボが実現

―新ブランドAGF®「煎」の和菓子に合うコーヒーというコンセプトはどこから出てきたのですか?

私たちAGF®には日本人の趣向を取り込み、日本の水に合うものづくりをするという「JapaNeeds Coffee®」という理念があります。そういった理念のもと生まれたのが新ブランドAGF®「煎」でした。
世界文化遺産に登録されている京都の上賀茂神社の有名な水である「神山湧水(こうやまゆうすい)」で作った「神山湧水珈琲」がAGF®「煎」のベースとなっています。「神山湧水珈琲」は、AGF®の文化事業という位置付けで開発されたのですが、和菓子に合うコーヒーとしてお客様から大変好評を得ていたため、その技術を応用してAGF®「煎」という新しいブランドを作るに至りました。

―全国和菓子協会との協力体制はどのように構築したのですか?

AGF®「煎」は和菓子とコーヒーの新しい食のマッチングを謳っているブランドです。発売当初、和菓子業界の賛同を得なければならないということで、全国和菓子協会に協力をお願いしに行きました。そうしたところ、ぜひ一緒に何か始めたいというお返事をいただき、「珈琲♡和菓子プロジェクト」発足へとつながりました。
2016年3月には、全国和菓子協会とAGF®がコラボレーションし、今後プロジェクトに取り組んでいくという発表を行い、その後、全国和菓子協会の協力のもと、コーヒーに合う和菓子を選出するアワードやコーヒーを用いた和菓子コンテスト、和菓子業界の職人たちに向けた和菓子塾などさまざまな活動を行ってきました。

―全国和菓子協会がコラボレーションを受け入れてくれた理由は何だったのでしょうか?

和菓子業界には、和菓子を食べるお客様が高年齢化し、若い方があまり和菓子を購入しないという課題があります。いくら和菓子がおいしくて、見た目が美しいといっても、和菓子に目を向けていない人を取り込むのは簡単なことではありません。
そういった問題解決のひとつの手段として、私たちの申し出を受け入れてくれたのだと思います。和菓子とコーヒーという新しい組み合わせを提案することによって、コーヒーを飲む方々へアプローチでき、新たなお客様の獲得につながると考えてくれたようです。

日本文化継承者とイノベーティブな企画を実現したい

―「WAGASHI-INNOVATION」はどういった内容の活動なのですか?

「WAGASHI-INNOVATION」では、日本文化の継承者にフォーカスしようと考えています。日本の文化を継承し、国内外に広めようと活動している継承者と組むことで、その方を起点に更なる広がりが期待でき、イノベーティブなプロジェクトにすることができるのではないかということでコンセプトを作りました。

―「WAGASHI-INNOVATION」の第1弾が十代目松本幸四郎さん協力のもと実現した「わがしばなし」なのですね。

AGF®「煎」のCM キャラクターである十代目松本幸四郎さんの襲名に合わせて「わがしばなし」を企画しました。歌舞伎の演目である「勧進帳」のストーリーを和菓子職人さんに4つの創作和菓子で表現してもらい、全国の応募から選ばれたグランプリと準グランプリの和菓子を歌舞伎座で販売するという企画です。

―十代目松本幸四郎さんが審査をされたそうですね。

一次審査では和菓子のプロの方々に書類審査をしていただき、選ばれた32名の和菓子を松本幸四郎さんの楽屋に全て持ち込み、審査してもらいました。ご本人の前にずらっと並べ、和菓子の名前と、どの場面をどう表現したかの説明を読んでもらい、グランプリ1名と準グランプリ2名を選出しました。

―襲名というタイミングだったからこそ実現した企画だったのですね。

タイミングが合い、奇跡的に実現したのがこの第1弾だったと思います。松本幸四郎さんは、歌舞伎界のサラブレッドでありながら、今までにない新しいことに挑戦し続けている方でもあります。ラスベガスで野外ショーをしたり、フィギュアスケートと歌舞伎を融合させたショーを開催したりもしていました。伝統文化としての歌舞伎を残していくためにも、イノベーションを起こしていかなければならないという考えを持っているので「WAGASHI-INNOVATION」の理念にも賛同してくれたのだと思います。
さらに、彼が大の甘党だったということも企画の相談をしやすかった理由のひとつでした。よく和菓子も召し上がるそうで、審査が終わった後、32名分の和菓子が並んだ光景は夢のようだったと話してくれました。

これまでにない企画として和菓子業界内でも大きな話題に

―どんな反響がありましたか?

グランプリと準グランプリの作品については、1月9日から1月26日の「勧進帳」を上演している期間中、歌舞伎座と受賞した和菓子店でも販売してもらいました。歌舞伎座では、和菓子4つとAGF®「煎」2種類を2パックずつの1セットを3,000円で販売していました。決して安くはないのですが、午前中に売り切れる日がほとんどでした。当初の販売数は5,000セットを予定していましたが、売れ行きが良かったので大幅に増やし、7,000セット用意してもらいました。
現在調整中ですが、今後、地方の襲名披露興行でも、それぞれの地域で受賞した作品を販売できないかという話も出ています。

―受賞された和菓子職人さんからはどんな反応がありましたか。

三浦:グランプリを受賞された榮太樓總本鋪の青木さんは自分を選んでくれた歌舞伎役者さんに会えたことがとても光栄だったと話していました。和菓子業界のモチベーションにもつながったと思います。

―入賞された和菓子はどれも繊細で美しいですね。

「勧進帳」の話を和菓子で表現するとこうなるのかという驚きがあります。作品を見ていて、和菓子職人さんの知性やクリエイティビティの凄みを感じました。
忙しい日々の中で、創作和菓子を作るのは並大抵のことではなかったと思います。「勧進帳」を理解するところから始まり、営業が終わってから夜遅くまで試作を重ねたという人も多かったと思います。今回の企画は、作品を作って終わりではなく、商品として販売することが応募要件だったので、そこをクリアするのが難しかったようです。
一度にこんなにたくさんの創作和菓子が集まることはそうそうあることではありません。業界としても、これまでにない取り組みになりました。和菓子業界の中でも話題になっているようです。

―AGF®社内からはどんな感想がありましたか?

「珈琲♡和菓子プロジェクト」が始まる前は、和菓子業界との接点はほとんどなかったのですが、今では、洋菓子よりも和菓子のほうが社員にとって身近なものになっています。
アワードなどで受賞された和菓子店と繋がりができていて、全国にあるAGF®事業所の近くにある和菓子店に営業が出向いていくこともあるそうです。お店の方とのコミュニケーションも生まれています。
他にも、自分の好きな和菓子店が受賞したとか、受賞をきっかけに地元にある和菓子店に行列ができていたとか、社内からも色々な反響があります。和菓子のことをみんなが意識するようになりました。
「新しい食文化の創造」というスローガンを掲げるだけではなく、社員みんなが自分ごととして取り組んでいるからこそ、その思いが和菓子業界にも伝わり、さらに活動が盛り上がっているのではないかと思います。

和菓子店という新たな販路拡大

―「珈琲♡和菓子プロジェクト」がAGF®「煎」の売上げや認知に貢献している実感はありますか?

まだ新しいブランドなので、認知度はまだまだだと思います。現在は、百貨店などの取り扱いが多いのですが、「珈琲♡和菓子プロジェクト」をスタートさせてから、和菓子店からAGF®「煎」を一緒に売りたいという要望をもらうようになりました。当初は、和菓子店でAGF®「煎」を売ることは考えていなかったので、販売ルートがまだ整っていないのですが、今後販売できる和菓子店を増やしていきたいと考えています。
最初から和菓子店でAGF®「煎」を売り出したいとAGF®の方からお願いしていたら、このプロジェクトはうまくいっていなかったかもしれません。

―お話を聞いていて、目の前の利益よりも、理念の実現に向けてプロジェクトを主催しているのだなと感じました。

このプロジェクトに込めている思いは、AGF®の理念である「JapaNeeds Coffee®」につながっています。全国和菓子協会、和菓子職人の方々、十代目松本幸四郎さん、皆さんの思いが重なり繋がったからこそ、かたちになったのだと思います。これからも、日本の文化に関わるシーンで、AGF®「煎」を飲んでもらえる機会を増やしたいと思っています。

―「WAGASHI-INNOVATION」では、日本文化を牽引するイノベーターの方とコラボしたいということでしたが、次の企画は決まっているのですか?

まだ決まっていません。社内で議論を重ねている最中です。他の分野の文化伝承者の方とも、またおもしろいコラボができればと思います。


味の素AGF株式会社 事業戦略部 マネージャー 三浦優子さん