Case: adidas Japan『PROPHERE BLACKBOX TOKYO』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、ストリートスポーツウエアブランド「adidas Originals」から発売された新モデル「PROPHERE(プロフィア)」のシークレットローンチパーティを取り上げます。2017年12月15日「PROPHERE」の世界一斉発売に伴って開催された200名限定のシークレットローンチパーティ。先着応募を勝ち取った、熱狂的なまでにスニーカーを愛好する“スニーカーヘッズ”達が招待されました。

このイベント会場内に設置された4つの試着室「BLACKBOX」では、発売前の「PROPHERE」の試着ができるだけでなく、これまでにない新たなアプローチの企画が実施されました。「BLACKBOX」に用意されていたのは、「PROPHERE」を「合法的に盗み出す」という体験。22台もの監視カメラ、SPたちに見つかることなく盗み出せた人だけが、誰よりも早く「PROPHERE」を手に入れることができたのです。

企画が立ち上がった経緯から、アイデアに込められたメッセージ、イベント運営の裏側まで、アディダスジャパン株式会社 Originals BU Brand Communication Manager福田新さん、株式会社電通 コピーライター 礒部建多さん、アートディレクター 今井祐介さんにお話を伺いました。

Interview & Text : まきだ まどか

スニーカーヘッズに忘れられない強烈な体験を提供したい

―「PROPHERE」シークレットローンチパーティのコンセプトを教えてください。

福田:「合法的にPROPHEREを盗み出す」というのが今回の企画のコンセプトです。スニーカーヘッズたちの「盗んででも手に入れたい」というインサイトを満たす体験の提供を目指しました。イベント会場に設置した小さな個室の試着室「BLACKBOX」から隣の部屋まで誰にも見つからずに盗み出すことに成功すれば発売前の「PROPHERE」が誰よりも早く自分のものになるという企画です。

―どういった思考を経て、「PROPHERE」を盗み出させるというアイデアに至ったのでしょうか。

礒部:イベントを通して、スニーカーヘッズたちのインサイトに響く、忘れられない体験を提供したいという思いがありました。忘れられない体験になることって何だろうと考えたときに出てきたのが、「盗む」という企画の出発点です。悪いことをしたという記憶は、強く印象に残って忘れられないことが多いと思います。普段は許されない「盗む」という行為を通じ、スニーカーを先着で手に入れることで、今までにないイベントにしたいと考えました。

福田:ふたりのプレゼンでこのアイデアが出てきたときに、これしかないと思いました。発売前のスニーカーを先んじて手に入れたという体験は、スニーカーヘッズの間で自慢になりますから。

細部にまでこだわった雰囲気作りが“盗み”をうながす

―「PROPHERE」が盗まれる現場である「BLACKBOX」の中はどうなっていたのですか?

福田:「BLACKBOX」は、自由に試着や撮影などができる個室です。利用できるのは、ひとり1回だけ、利用時はひとりずつ入ってもらいました。制限時間は2分間。ランダムに選ばれた来場者には、突然「BLACKBOX」内のモニターに「あなたにはPROPHEREを盗み出す権利が与えられました」という文字が表示され、合法的に「PROPHERE」を盗み出せるチャンスが与えられたことが伝えられます。来場者の方々には、一切企画の詳細を伝えていなかったので、みなさんびっくりされていました。

―イベントの設営や運営では、どんなことに気を配ったのですか?

礒部:コンセプトが固まってからは、どうやって盗み出してもらうかを細かく設計しました。どんな空間で盗み出してもらうのがいいのか、盗み出すことのスリルやかっこよさをどう演出するかなど、細かなルール作りを徹底しました。

今井:「盗め」といわれても盗まないのが日本人の気質です。「本当に盗んでいいの?」という理性が働きます。その日本人の気質を前提に設計しようといつもチーム内で話していました。盗み出してもらうためには、ルール作りを含めた細部にまでこだわった会場全体の雰囲気作りが必要でした。会場に「BLACKBOX」内を映すモニターを設置することで会場全体の期待感を煽ったり、「BLACKBOX」内のモニターに映される文言の言葉遣いにもこだわりました。単純に「盗め」といわれても、盗まない人がほとんどだと思いますが、「あなたには盗む権利が与えられました」という風に表現を工夫すると、盗んでみようとする人が増えます。

―実際には、何人くらいが盗み出すことに成功したのですか?

福田:10人が成功しました。最初の何人かは、モニターに「盗み出せ」というメッセージが出ても、キョロキョロ様子をうかがうだけで、盗み出そうとはしませんでした。最初のひとりが盗み出すことに成功すると、何かが起こっている雰囲気を感じ取ったり、横目で見ていた人がいたのか、盗み出そうとチャレンジする人が増えました。

礒部:ただ驚いてポカンとする人、スタッフに確認する人、隠そうともせずそのまま持って出ていこうとする人など、いろいろな人がいました。

福田:盗み出せた方には、記念にマグショットを撮ってプレゼントしました。マグショットは、海外で逮捕後に撮影される囚人写真風のポートレートのことです。アンダーグラウンドなプロダクトのコンセプトに沿いながら、誰かに見せたくなるようなイメージで写真を仕上げました。マグショットを撮るときに手に持つボードには、お客様の名前や盗み出した”犯行時刻”などを描き、唯一無二の特別感を演出しました。文字デザイン専門のデザイナーさんに名前を描いてもらったので、クオリティの高い仕上がりです。そのネームボードとシューズを一緒にお渡ししました。

クライアントと代理店の垣根を越えたチームワーク

―イベント後、どんな反応がありましたか?

礒部:盗み出せた人がイベント内容の詳細をツイートしてくれたり、イベント直後に Instagram に写真をアップしてくれた人もいました。盗めなかった人からは、「あれって、本当に盗んでよかったんだ」というようなコメントが付いていたりもしました。

福田:盗み出すことに成功した人は、「悪いことしちゃった」というテンションでSNSにアップしてくれたので、こちらが狙っていた通り、ネットでの話題化にもつながりました。

―adidas社内からはどんな反応がありましたか?

福田:「よく実現できたね」「今までにない企画だった」など、いろいろな反応がありました。プロダクトをかっこよく見せたり、ストーリーをどう伝えるかということだけでなく、コンセプトを体験にまで落とし込んだコミュニケーションができたことで、コンシューマーの心に残るイベントになったと思います。

―今回の企画がコンシューマーの話題を集め、記憶に残るイベントとなったポイントは何だと考えていますか?

今井:3人がそれぞれプロフェッショナルとして知恵を出し合ったことがイベント成功につながったと思います。私はビジュアルデザインを設計し、礒部は言葉とプランニングを考え、福田さんはadidasサイドでの調整を行いながら、私たちと一緒にプランニングをしてくれました。それぞれがプロフェッショナルとして戦うことができ、お互いに信頼し合えたことで、レベルの高いチームになれたと思います。

福田:代理店の2人に企画を投げっぱなしにするのではなく、私自身もしっかりジョインし、プロダクトのコンセプトを企画に落とし込むことで、企画の質をより高められたかなと思います。

礒部:実は福田さんと私は高校時代からの同級生で、今井とは会社の同期です。偶然にもつながりがもともとあったということもあり、クライアントと代理店の垣根を越えたチームになれたと思います。3者の距離が近いので、早い段階でコンセプトの共有ができ、3人とも同じビジョンを持って進めることができました。同世代ということもあり、プロフェッショナルでありながらも、文化祭を作り上げていくような感覚を持てたこともよかったですね。

―バランスのよいチームだからこそ、難しいイベントを成功に導くことができたのですね。

福田:今回は、チャレンジングな企画を実現させただけではなく、プロダクトの売上も好調です。話題作りというだけではなく、「PROPHERE」が初めて世に出るタイミングで、良い形でお客様に届けることができたと思います。


(写真左から)
アディダス ジャパン株式会社 Originals BU Brand Communication Manager福田新さん、株式会社電通 コピーライター 礒部建多さん、アートディレクター 今井祐介さん