Case: 『かぜぐすリリック』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、公開から1週間で再生回数100万回を突破したミュージックビデオ『かぜぐすリリック』について取り上げます。新潟在住のアイドルユニットNegiccoが歌い、多くの人気アーティストへ楽曲提供をしているヒャダイン氏が作詞作曲を担当。かぜ薬CMの“あるあるシーン”をコミカルに紹介するミュージックビデオとなっています。企画が立ち上がった経緯から楽曲制作の舞台裏まで、株式会社マッキャンエリクソン プランニングディレクター 平井孝昌さん、プランナー 折茂彰弘さん、アートディレクター 斎藤優姫さんにお話を伺いました。

Interview & Text : まきだ まどか

長年かけて築いたCM資産をネット文脈に変換

―今回の企画が立ち上がったきっかけを教えてください。

平井:「ベンザブロック」のTVCMは20年以上前から放映されており、知らない人はほとんどいない状況ではありますが、接触メディアがテレビからネットに移行している若年層たちについては、ブランドへの関心が低下している傾向にありました。きちんと若年層に届くコミュニケーションによって、親近感があり、頼りになるブランドだと関心を持ってもらいたいというオーダーがクライアントからあり、今回の企画が始まりました。

―「ベンザブロック」製品そのものやTVCMには長い歴史があるんですね。

平井:症状別のかぜ薬としては、ベンザブロックはパイオニア的存在です。20年以上にわたって放映してきたTVCMは、タケダさんの資産になっています。その資産を活かしつつ、若年層にリーチするため、ネット上で受け入れられやすい文脈に変換することを目指しました。TVCMをそのままオンライン上で流しても、ネット文脈とは異なりますのでターゲットにとって関心を持ちにくいという状況があります。そのため、ネット文脈とベンザブロックのコンテクストをうまく掛け合わせて、インパクトのあるコミュニケーションができないかと考えました。

―かぜ薬CMのあるあるネタというアイデアに決定した決め手は何だったのですか?

平井:あるあるネタの世界観は人々に受け入れられやすく、特に今の時代、シェアされやすい表現だといえます。「あるあるソング」というフォーマットはずっと昔から世の中に存在しています。お笑いコンビ「レギュラー」の「あるある探検隊」の流行、最近だとミュージックビデオにありがちなことを詰め込んだ岡崎体育さんの『MUSIC VIDEO』も話題になりました。今回の企画を制作するに当たって、最初に思い浮かんだのが『てさぐれ!部活もの』というアニメのオープニングでした。アニメのオープニングあるあるを詰め込んだ曲です。

ネットにバックボーンのあるヒャダイン氏が作曲を担当

―Negiccoをキャスティングした理由を教えてください。

平井:私が所属する部署では、データ分析によるインサイトの発見を行っており、以前、Twitterで「かぜ」についてデータ分析したことがありました。1ヶ月で100万回以上「かぜ」についてのつぶやきがある中で、相関係数の高いキーワードとして、「鍋」と「ねぎ」が導き出されました。「かぜ」のツイートが増えると、「ねぎ」のツイートも増える傾向にあることが分かりました。そういった認識がもともとあり、私の中でベンザブロックとNegiccoがつながったのです。

折茂: Negiccoは結成して15年目という息の長いアイドルユニットです。ファンに愛されているアイドルユニットだと思うので、話題化のひとつのきっかけになると思いました。ベンザブロックが症状別かぜ薬として3色で展開しているため、3人組のユニットという点も選出のポイントです。

―ヒャダインさんに依頼した理由は何ですか?

折茂:ヒャダインさんのバックボーンはネットにあります。そのため、ネット上で何がウケるのかを深く理解していて、手がけたものはネット上でよく話題になっています。今回の企画もネット上での話題化を目指していたので、ヒャダインさんならその意図を理解してもらえると考えました。

平井:オファーした後で知ったのですが、ヒャダインさんとNegiccoはテレビやラジオなどで共演したことがあり、いつか楽曲提供できればという話をしていたそうです。そんなつながりもあり、ヒャダインさんとしても今回の企画を受けてくださったのだと思います。

「ナントカ」「無駄に」歌詞にツッコミどころを作る

―曲中には、たくさんあるあるネタが盛り込まれています。どのように作詞を進めていったのですか?

折茂:作詞は斎藤と私で担当し、最初に曲をブロック分けしました。導入、“あるある”を詰め込む部分、サビはアイドルっぽく、さらに“あるある”を入れて、最後に広告を入れるという大まかな構成を考えました。その中でも、“あるある”が主になるように注意して作詞しました。曲中の“あるある”については、かぜ薬に関係するCMを50本以上見て、ピックアップしました。

斎藤:最初はかぜをひいて悩んでいる人が出てくるシーン、最後はかぜが治って元気になった人が出てくるシーンというように、かぜ薬CMとして象徴的なシーンがあります。それらをどういじったらおもしろいかを考えて歌詞を作りました。

平井:2人の作った歌詞を見て、普通は歌詞には使わない単語を使って欲しいとお願いしました。「ナントカ処方」「無駄に」「なぜか」「謎に」のようにぼやかしている言葉は、普通、歌詞には使われません。かぜ薬CM“あるある”に対する素直な気持ちをそういった単語に込め、ツッコミどころを作りました。

―楽曲制作中、クライアントからはどんな反応がありましたか?

折茂:歌詞については、クライアントからの戻しがあることを承知でネタ感強めの歌詞を提出したところ、予想外に受け入れられました。若年層の認知を高めるという目的を共有し、そのためのあるあるネタであることをクライアントは理解してくれていました。

斎藤:歌詞については最低限の修正しかなく、話題になるならもっとネタ感を足してもいいのではという意見があったほどでした。ネット上の反応でも、「タケダがこんなことするんだ!」といった反応が多かったですね。

―ムービーの制作で苦労した点はありますか?

折茂:ムービーの編集のとき、クオリティが高すぎると普通のかぜ薬CMっぽくなりすぎてしまい、ネタ感がうまく伝わらないという問題に直面しました。そこで、編集でネタ感を足すことになり、ムービー内に出てくるコピーをぎりぎりまで大きくしたり、大げさなくらいに注意書きを大きくしたりしました。

ムービーの再生回数は300万回超え!

―リリース後、反響が大きかったと思いますが、クライアントの反応はいかがでしたか。

折茂:Webのメディアなどで話題にしてもらえたり、「ベンザブロック」がTwitterのトレンドに入るなどして、クライアントにも喜んでもらえました。商品名がトレンドに入ったことは、クライアントにとって意味のあることでした。

―ネット上での反応はいかがでしたか?

折茂:着火点として、Negiccoファンから火が付いたというのは狙い通りでした。ファンの方がイラストにしてくれたり、MAD動画や「踊ってみた」の動画がアップされたりもしました。ムービーの再生回数は現在300万回を超え、「広告なのに最後まで見てしまった」「耳から離れない」といったコメントも多く見られました。コンテンツ力で見る人をそこまで引き付けられたことは、広告として成功だと思います。

あるあるネタフォーマットにかぜ薬CMがはまった

―今回の企画がバズにつながったポイントについてどう考えていますか?

折茂:Negicco×ヒャダイン×振付稼業air:manの3者の組み合わせが話題化につながったと思います。歌詞の“あるあるネタ”のおもしろさ、メロディのキャッチーさ、Negiccoというキャスティング、タケダさんが仕掛けていることなど、あらゆる要素が多角形的に広がり、バズにつながったと考えています。

平井:あるあるネタのフォーマットがバズにつながることについては最初から確信がありました。タケダさんが20年以上にもわたり、かぜ薬CMを放映してきたからこそ、あるあるフォーマットにかぜ薬CMがぴったりはまったのだと思います。長年の取組みにリスペクトを込め、これまで作られてきたたくさんの「ベンザブロック」をはじめとしたかぜ薬CMの総決算ムービーとなったことが、みなさんが話題にしてくれたポイントだと思います。

斎藤:「Negiccoがあの大手のタケダに使ってもらえるようになった」という思いから、ファンの方々が何度もツイートしてくれるなど、ファンの後押しが大きかったと思います。「再生回数○万回突破!」「祝杯だ!」「かぜ薬の推しをベンザブロックに変えなきゃ!」など、ファンの方々が喜んでくれたことがうれしかったですね。Negiccoを知らなかった方も興味を持ってくれたので、Negiccoの他の曲の再生回数が増えたそうです。

―今後の展開について教えてください。

折茂:まだ可能かどうか分かりませんが、ファンの間では音源化してほしい、ライブで歌って欲しいという声が大きかったので、実現に向けて動いていきたいと思います。息の長いコンテンツにしていきたいですね。

(左から)株式会社マッキャンエリクソン プランナー 折茂彰弘さん、アートディレクター 斎藤優姫さん、プランニングディレクター 平井孝昌さん