Case: 資生堂「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は資生堂によるWeb動画「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」を取り上げます。「女子高校生だと思っていた子たちが、実は全員女装した男子高校生だった」という驚きのエンディングが、SNS上でも話題を呼んだ今回のWeb動画。

このプロジェクト開始のきっかけから、SNS上での拡散、撮影の裏話まで、株式会社 資生堂 宣伝・デザイン部 小助川雅人さん、資生堂ジャパン株式会社 コミュニケーション統括部 メディア戦略室 デジタルメディアグループ グループリーダー 仙田浩一郎さん、資生堂ジャパン株式会社 コミュニケーション統括部 メディア戦略室 デジタルメディアグループ 木村桃子さんにお話を伺いました。

Interview : 市來 孝人 / Text : 坂巻 渚

拡散される文脈をとことん追求、絞り込まれたアイディア

—まず、今回の動画制作の経緯を教えて頂けますか。

木村:昨今、色々な企業さんが動画を活用していることもあり、弊社でも何か動画を使って面白いことをしてみたいと考えていました。そこで今年の2月にコミュニケーション統括部と宣伝・デザイン部、そして制作会社のワッツオブトーキョーさんとで「動画プロジェクト」を立ち上げて動き始めました。

これまで高校生・大学生・20代前半など、若年層との接触が課題だったこともあり、今回は、彼女たちに共感してもらえるような動画を作ろうということになりました。 若年層はテレビよりもWeb上での動画をよく見る傾向にありますし。

—今回のアイディアに行き着くまでには、他にも色々と案があったのですか?

木村:最初は30案ほどありました。その中で、女子高生・女子大生にグループインタビューをした所、「女装男子」の案がダントツ人気だったんです。社会人男性の女装の案も考えてはいたんですが、彼女たちに男子高校生の女装の案を話した所、「それ面白い!そんなのがあったらシェアしたい!」とすごく盛り上がったので。

テーマの大枠が決まってからは、PRのネタになりそうな要素や、シェアされそうな要素について議論を重ね、その結果「女子高生全員が、実は男子高校生だった!」という内容に決まりました。10代の子たちがシェアする動画は「おもしろ系」が多いというデータが出ていたという面もあります。

[企画時の絵コンテ]

7時間に及ぶ撮影。秒刻みの過酷な進行も

—今回キャスティングについても、かなりこだわられたのではないですか?

木村:そうですね。高校生向け雑誌「HR」に出たことのある男の子の中から、化粧映えや、メークを落とした時もイケメンか等を基準に出演者を決めました。

—特設サイトにある「女装男子の写真をこすると、その子の素顔が見える」コンテンツも面白いですよね。やはり動画を見て特設サイトにもアクセスしてもらうという導線を意識してサイトを設計されたのでしょうか。

木村:はい。「このカッコいい男の子たち、誰だろう?」と関心を持ってサイトに来てくれた女の子たちに、更に楽しんでもらうために、「写真をこする」というアクションを取り入れています。

—撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?若い世代が揃ったということで、賑やかだったのでは。

木村:撮影前日にリハーサルをしたんですが、その時はまだ男の子たちもちょっと緊張していましたね。

小助川:みんな最初は友達同士ではなかったので、メークテストなどで徐々に顔見知りになっていくという感じでした。

木村:リハーサル日はみんなで泊まったり、撮影当日は過酷な撮影を一緒に乗り切ったりで、撮影が終わる頃にはみんな本当のクラスメイトみたいに仲良くなっていました。

[撮影時のオフショット]

—過酷な撮影だったんですか?

小助川:7時間という長時間の撮影で、ずっと同じ姿勢を保つのがかなり大変だったと思います。

仙田:ペンをずっと持っていなきゃいけなくて、手がプルプルしたり(笑)。

木村:特にメークを落とすシーンは1発撮りだったので、失敗しちゃいけないし、動いちゃいけないしでプレッシャーもあったと思います。動画では足だけしか写っていない場面でも、ずっと止まってなきゃいけないんです。あとは、ヘア&メーキャップアーティストもかなり大変だったと思います。男の子1人の変身時間が1時間と決まっていて、「はい、次は髪!」「10秒後に、眉へ入ります!」と秒刻みで時間と戦っていましたね。

[撮影時のオフショット]

動画コンテンツ拡散の経路を探る狙いも

—動画公開のタイミングではPRや広告等は仕掛けられたのですか?

木村:色々と考えた結果、公開時にはPRも広告も一切打ちませんでした。出演した男の子たちやスタッフがTwitterで公開について投稿してくれたくらいです。様子を見て、全然拡散しなかったらPRを打とうと思っていました。実際最初の2日はあまり拡散しなかったんですが、3日目くらいから一気に爆発していきました。

—拡散に火が着いたきっかけは何でしたか?

仙田:最初は個人のアカウントのリツイートが積み重なり、それをバズ系メディアに取り上げられたことが大きかったと思います。そこから色々なメディアで取り上げてもらうことができたので。

木村: 10月16日に動画を公開したのですが、19日にはYahoo!映像トピックスの総合ランキング1位になり、Togetterでも『資生堂の新CM 衝撃のラストにザワつくTL「プロすげえ」「パーカーの子だけは信じてたのに…」』の記事がかなり盛り上がったおかげで、公開から4日後にはYahoo!トピックスでTOPページにも取り上げて頂くことができました。

—公開から1週間後にはリリース記事も出されていますが、このリリースの意図を教えて頂けますか。

木村:動画に色々な小ネタを仕込んでいるのですが、その小ネタにもっと気づいてもらえたらという狙いです。あとは、動画についての質問がSNS上に結構あがっていたので、それに答えて、その小ネタからまた話題になってくれたらという思いもありました。

—動画公開時にリリースを出すことが多い中で、今回のように「小ネタを明かしていく」というリリース記事の出し方は珍しいですよね。

小助川:「どういう経路をたどって拡散していくかを知りたい」という目的もあったので、最初は何もしなかったんです。ただ蓋を開けると、テレビを含め、ほとんどのメディアに取り上げていただくことができて。更に小ネタを出すことで、まだ取り上げてもらっていないライターさんにも興味を持ってもらえたらと。

[撮影時のオフショット]

メークの面白さを真正面から伝える

—成果としては、予想と比べていかがでしたか?

小助川:現時点で800万回再生と予想ははるかに超えましたね。100万回再生が目標だったんですが、はじめはそれも厳しいかなと思っていたので。意外と海外からの反響が大きかったのも驚きでした。

木村:「100万回を超える動画を作るのはまず難しい」「動画をアップしたタイミングで広告を打たないと」など、(公開前には)メディアや代理店の方から色々なご意見も頂いてはいました。

—社内での反響も大きかったのではないでしょうか。

小助川:リリースを出さなかったこともあり、後から動画のことを知って、色々質問攻めにあいました。

仙田:「この動画の目的は?」「効果はどうだったの?」など質問があまりに多くて、社内対応が結構大変でしたね(笑)。

—今回得たノウハウを、今後社内でどうのように活用されていくご予定ですか?

小助川:今回大きく2つのノウハウが蓄積されたと思っています。1つは「動画を作る」という部分のノウハウ。もう1つは「どういう経路で拡散していったのか」というコミュニケ−ションのノウハウですね。どういったメディアに取り上げてもらうことが重要なのかなど、今まさに詳細を分析しています。今後は今回得たノウハウをブランドのコミュニケーション戦略に活かしていければと思います。

木村:「動画を作る」という点で言うと、今回はテーマ決めから制作までかなり議論を重ねたこともあり、どういう視点で動画を作っていくのがいいのかなど、色々と共有できると思っています。あとはSNS上で打った広告やその効果なども共有していきたいですね。

—お客さんからの反応はいかがでしたか?

木村:「さすが資生堂!」などという声がSNS上で飛び交ったのは純粋に嬉しかったです。メーク技術に対する声や、動画の意外な切り口に賞賛の声がありました。

小助川:「メークがしたくなった!」という声も多くありました。会社や商品をアピールしていくよりも、メークの面白さをまっすぐ伝える内容の方が見ている方にも受け入れられやすいということを知ることが出来たことも大きかったと思います。

仙田:今回「メークをもっと楽しもうよ」という大枠をコンセプトにしていたので、資生堂のロゴは最後まで出てこないんです。でもそこから更に、実はその動画は資生堂が作っていて、「資生堂ってすごいね!」とつながったのは嬉しかったですね。あとは、特設サイトに載せているメイキング動画も90万回以上再生されていて。本編の動画を見た約1割もの方が興味を持ってメイキングまで見てくださっているという点は、やはり嬉しいですね。


株式会社 資生堂 宣伝・デザイン部 小助川雅人さん(中)
資生堂ジャパン株式会社 コミュニケーション統括部 メディア戦略室 デジタルメディアグループ グループリーダー 仙田浩一郎さん(右)
資生堂ジャパン株式会社 コミュニケーション統括部 メディア戦略室 デジタルメディアグループ 木村桃子さん(左)