Case: 東京メトロ・上野駅に桜を咲かせる

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は、3月5日〜3月22日に東京メトロ上野駅で実施された「アサヒスーパードライ スペシャルパッケージ」のプロモーションを取り上げます。春限定・ピンク色のパッケージにちなみ桜の写真や桜の造花を配し、地下鉄の駅でありながら桜が満開に。造花を使用した駅構内の広告は東京メトロ初だったそう。

実現の経緯をアサヒビール株式会社 マーケティング本部 宣伝部 メディアグループ 担当課長 花田真志さん(文中H)、株式会社 中央アド新社 営業推進部 メディアチーム ディレクター 井上達也さん(文中I)にお話を伺いました。

Interview : 石原 愛美(Aimi Ishihara)/Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)

商品ど真ん中ではない、お客様に体験してもらえる・話題にしてもらえるコンテンツを

—まず「スーパードライ」といえば銀色の印象がとても強いですが、このピンクのパッケージ、とても色鮮やかですよね。

H:ありがとうございます!生活者の「コト消費」が加速する中、当社は春の訪れ時の2月24日にこの斬新なピンク色のパッケージのスーパードライ・スーパードライスペシャルパッケージを発売し、新鮮な「驚き」と共に、「春が待ち遠しい」「お花見を楽しみたい」といった情緒的価値を生活者に提供することで、“飲用シーンの創出”を目指しました。スーパードライで全面をこんなにピンクにしたことは初めてですね。

I:実はアサヒビール・小路社長直々のアイデアだったとお聞きしています。日本を代表するビールであり、アサヒビールの看板商品の「スーパードライ」をピンクにするという判断は、まるで某車メーカーの主力車種のボディをピンクにして登場させるくらいの驚きですよね。

—そのパッケージを、地下鉄の駅で桜の一面装飾という形で訴求した理由は何でしょう?

H:この尖った商品の情報発信プランを構築していく中で、生活者とのより深い情緒的なコミュニケーションを実現するには、『文脈に頼った従来型PR』ではなく、広告を含む『コンテンツPR』のほうがマッチしているんじゃないか、と思いました。これまでの商品ど真ん中ではない、お客様に体験してもらえる・話題にしてもらえるコンテンツを作って、そこを起点としてPRしていければいいのではと。結果、今回のこのプロモーションに行き着いたんです。

実は最初、文脈をいろいろ考えたんですが、6、7回くらい打合せをして喧々諤々と議論しましたがなかなか筋の良い文脈を定められませんでした。でも、このコンテンツに関しては、商品との親和性・タイミング・地域性・イベント性を兼ね備えていたこともあり、即決!でした。

—ほかにどんなアイデアが挙がったのですか?

I:他にも銀座や表参道といったトレンド寄りの街に、「パッケージを変えた」=「春の装いに変えた」というファッションの衣替えのイメージでの訴求も考えたりしました。

H:我々で話していく中で「桜に関連したプロモーションをやれば面白いんじゃないか」というアイデアが浮上したのですが、候補としては桜をイメージさせるエリア、例えば上野、浅草、新宿御苑といったところでした。特に、上野駅は森山直太朗さんの『さくら(独唱)』が発車メロディということもあり、まさに桜が似合う駅ではないかと。

I:東京メトロさんも、ご当地発車ベルということで『さくら(独唱)』を使われているのですが、上野駅自体を「桜」にゆかりのある駅として訴求していきたいということだそうでした。そのため我々の企画とも上手く合致しました。

桜が開花する前のワクワク感がある時期に展開

—駅の中で、天井に桜を敷き詰めるエリアというのはどのように決めたのですか。

I:地下鉄で交通広告をやるにあたっては、その構内の地上が国道や都道であれば、それぞれ国交省や都に申請しなければいけません。条例で天井・フロアの立体造形物の装飾はNGだったりするのですが、JRさんの下であれば同じ鉄道ということもあり、比較的自由に使うことが可能なので、それらの兼ね合いを踏まえてエリアを決めました。

—桜が実際に開花する前のスタートとなりましたが、その狙いは。

H:本物の桜が開花して満開になるドンピシャのタイミングで「ここ(駅)も満開だね」と話題にしていただくのもアリなんですが、やっぱり本物の桜には勝てません。

「そろそろ花見の季節だな」「春が近づいてるね」などと色々考えてもらって、人の心を春色にできるこのタイミングがベストだと思いました。あえて「ひと足早く東京で桜が満開」にすることで注目も高まるでしょうし、この商品も2月下旬に出ていましたので、そこからあまり間を空けないほうが良い、という面もありましたね。

I:本物の桜が開花してしまうとそちらに話題が移りますし、開花する前のワクワク感がある時期に展開したのが良かったですね。映画の予告編のように、本物の花見が楽しみになるような、桜の開花までの予告編になるような形が最も美しいと思いました。

—天井に桜の装飾を取り付けるのは大変だったのではないですか?

I:構内が比較的狭いので人海戦術を取れないんですよ。なので、1日ではなく2日はかかりましたね。しかも1日あたりの作業時間でいうと、終電後から、始発前の駅改札が開くまでの、実質約3時間しかない。どう完成させるかのプランを分刻みで作りました。

H:1日目が終わった段階では五部咲きでしたよね。笑
ただ1日目と2日目を両方見たお客さんのTwitterのつぶやき等を拝見すると、「五分咲き」→「満開」という流れがまた粋に映ったようで、けがの功名と言いますか、良い煽りにもなったかなと思います。

I:地下鉄の駅で普段は空が見えないですから、青空があったことも好評だったようです。「地下に咲く桜」とSNSなどで話題にしていただきましたし、東京メトロさんからも駅が華やかになって良かったと言っていただきました。

—メディア・お客様の反応は。

H:やはりインパクトの有る場所ということで各キー局さんも取り上げて頂きましたし、新聞各社さんにも取り上げていただけました。ブロガーさんが綺麗に写真を収めて紹介してくれたりもしましたし、Twitterでは総じて好意的なつぶやきをしていただけました。

現地で実際にお客様の反応を見に行ったりもしましたが、際に現場で歩いている方々が「満開だよ」「綺麗」と見上げながら通って行ったり、桜の装飾はもちろん商品のパッケージをあしらった部分と一緒に記念撮影される方も結構おられたりという光景を見て、実施して本当に良かったなと思いましたね。

—このプロモーションのKPIはどのように設定しているのでしょうか。

H:テレビ・新聞等の露出広告価値換算、SNS拡散の質量、商品認知率・飲用意向・購入意向・企業イメージ各指標などでしょうか。でも、数字も大事ですが、現地でのお客様の反応が一番の成果だったと実感しています!会社では言えませんが(笑)。

—売り上げへの効果もあったのではないでしょうか。

H:売りに関しては様々な要素が重なり合っているので、このプロモーションだけで増減は量れないですよね。商品は、当初は約30万ケースの販売予定だったのが、おかげさまで好調でして、2倍の約60万ケースの売上になっています。その何かしらの後押しになったのでは・・・と思います。

I:Twitterを見ていても、このプロモーションを見て限定パッケージを知った、買ったという方も結構いました。

—今後も、このような季節感溢れるプロモーションを実施するご意向もあるのでしょうか?

H:今回は商品、時期、場所、会社の理解、そして井上さんをはじめとする中央アド新社さんメトロアドエージェンシーさんとのチームワークと、すべてがかみ合ったので・・・。笑
これだけうまくやるにはどうすれば良いかという点は常に考えていく必要がありますが、今後も自社にとっても世の中にとっても良い結果をもたらすコンテンツを少しでも多く創造して行ければ、と思います。

そのためには、世の中の動きは速かったりしますので、自身のセンスだったり知識だったりを今以上磨く必要がありますし、常にアンテナを高くして情報感度を高めるとともに、新しいネタや企画が集まってくるように、協業者さんと今以上に色々と会話していきたいな、と思います。

アサヒビール株式会社
マーケティング本部
宣伝部 メディアグループ
担当課長 花田真志さん