Case: JR東日本「JR SKISKI」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」のスピンアウトとして、特に「広告」や「企業」と「音楽」の関係について掘り下げる新連載「MUSIC IN ADVERTISING」。

「音楽」が話題になるキャンペーンといえば、JR東日本「JR SKISKI」。1991-1992年にZOO(CMソングは「Choo Choo Train」)を起用して以来、90年代に数々のCMタイアップ曲がヒット。2006-2007年に一度TVCMが復活。2012-2013年から再度TVCMのOAが開始されて以来、この冬で3シーズン目を迎えました。

2012-2013年、2013-2014年を取り上げた「前編」に続いて、この記事では「後編」として今シーズン(2014-2015年)について、音楽面はもちろん、CMに隠されたストーリーやこのキャンペーンの持つ意義まで、株式会社 ジェイアール東日本企画 クリエイティブ局 クリエイティブディレクター/コピーライター 山口広輝さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)

「若さ、新しさ」という不安定なものを大切に

—今シーズンの「JR SKISKI」キャンペーンの狙いについて、教えてください。

過去2シーズンを踏まえて「JR SKISKI」が話題になる柱は「タレント」「音楽」「コピー」と三本柱になってきていました。前年の「ぜんぶ雪のせいだ。」は有名人の方もTwitterでつぶやいてくれたり、ドラマでパロディにされたり、広告としては別のところで拡散したのですが、これは嬉しいですよね。女優さんやアーティストさんの起用の話題はもちろん、コピーも話題になり得るというのが前年の成果でした。

今年は誰だ、どんな曲だ、どんなコピーだと、年を重ね着々と話題にもして頂いている実感もある中、「冬といえばJR SKISKI」だと言われるポジションを目指しましょうという点と、「若さ、新しさ」という不安定なものを大切に、という点をJR東日本さんにはプレゼンしました。毎年新しい女優さんや新しいアーティストさんを起用するということは、やはり最初はウケるかどうかと我々も思案するのですが、だからといって、名の知れている方が出演して、名の知れている方が歌ったとしても、若い子たちは驚かないんですよね。よく出来すぎちゃって「こんなものでしょう」と。

例えば、(1991-1992年に)いきなりZOOが出てきた時の「なんかカッコいい若者が踊っている」というような驚き、これは継承して「まだ知らなかったけどいいよね」という、半歩先を行くようなことを今の時代でもやっていきましょうと。

—年を重ねて徐々に話題になっているな、という点はどのようなところで感じられますか。

やはりTwitterですかね。今シーズンは11月上旬くらいから「今年は誰なんだ」とか「いつから始まるんだろう」とザワザワしはじめました。

—その理由としてはやはり、小さい頃や若い頃に「JR SKISKI」の印象が残っているという方も多いのでしょうか?

それが、実は90年代のキャンペーンも知らないような若い子が、今の広告をきっかけに調べてみたら「え、こんな昔からやってるの」という反応も多いんですよ。ファッションなんかとも一緒で、バック・トゥ・ザ・90sみたいことが、若い子にとっては一週回って新しいものに見えてきているのかなと思います。

—今シーズンはback number「ヒロイン」がCMソングですね。

back numberさんはプロデューサーと相談している中で「実力派で良いアーティストがいる」と浮上してきました。オールナイトニッポンのレギュラーをやっていて10〜20代のリスナーに圧倒的な支持を受けているということも魅力的でした。

また歌の世界観としても「せつなさ」を出してくれる方が良いなという点もありました。どちらかというと1年目、2年目は、キラキラした理想のシチュエーションのCMだったのですが、今年は「あ、こんな恋愛あるかも」というよりリアルなシチュエーションを繰り広げてみたいなとも思っていたので。

—過去2シーズン同様、今シーズンもアーティストさんへの手紙を書かれたのでしょうか。

タイアップにあたり、CMとともに楽曲もこの冬の代表曲になってもらいたいという旨と、楽曲だけではなくプロモーショナルな話題作りも含めて可能ですかという旨をお伝えしました。一緒に話題を作っていける方にお願いしたいなと。

またCMの世界観についても、主人公「スズ」がタイプの違う男子「ユウスケ」「タツヤ」との間で触れる三角関係で、歌詞はその内容とガチガチにリンクする必要はないけれども、「答え」「雪」「青春」「せつなさ」「迷い」などといったイメージワードに少しだけリンク出来るように考えて頂けると嬉しいというようなお話をさせて頂きました。

CMをなぞるというより、曲はまた別の世界観があって、うまく同じ方向を向きながらもCMと曲、違うものを作っているという形がベストなので。こうして生まれた今年のCMソング「ヒロイン」は男の子が女の子のことを好きかなぁ…と迷っている世界観の曲です。

今年のCMに込められたさまざまなエピソード

—CMの設定は男女6人グループで、「東京駅編」で自己紹介していますが、彼らは初対面なのでしょうか?

知り合いが2人いて、それぞれ連れて来た2人ずつがいるという設定です。ちなみに「スズ」(広瀬すずさん)が揺れ動く「ユウスケ」(宇治清高さん)と「タツヤ」(村上虹郎さん)は幼馴染という設定です。最初4人も考えましたが、(三角関係のストーリーから)1人あふれちゃうじゃないですか。5人にすると奇数で1人あふれるし…個人的には「雪山6名理論」というのがあって、毎年6人の設定になっています。

—それは新幹線の座席のレイアウトもありますか?

鋭い!それもあります。ボックス席で座った時に3-3になれますからね。

—主人公「スズ」は東京駅まで送ってきてもらっていますが、実家通いなんでしょうか。

お父さんが送っていますね。大学生という設定ですが、まだ未成年ということで、朝お父さんが送ってくれて日帰り・泊まりのどちらにも取れるような大人の配慮をしています。

—日帰りとの捉え方も含むんですか?「告白編」では告白まで進展していますけど…(笑)

まあ、そこはCMということで…。日帰りでそこまで進展するかという感じもありますが、お父さんとも仲良く出来る気だてのいい子、というイメージがあったので。
そこのところはあまりハッキリと規定せず、視聴者それぞれが自分の恋愛を投影出来るように、みなさんのご想像にお任せしてみました(笑)。

—「恋の魔法編」での「スズ」がパーンと指鉄砲をすると「タツヤ」が転ぶシーンも印象に残っています。

これは映画「私をスキーに連れてって」で原田知世さんが滑っている人をバーンってやるシーンがあって、そのオマージュですね(笑)。30年近く前の映画ですが、これを今の若い人に見せたらどうなるんだろうと監督との打ち合わせで盛り上がって「やってみよう」ということになりました。

「キャンペーンを蘇生しよう」「一旦盛り上がって凍結されたものに火をおこしてほしい」

—キャンペーン全体の中では、過去2年から新たに変えた点などはあるのでしょうか。

今年ははじめてCM発表の記者会見という形をとりました。これまではJR東日本さんの定例会見で発表していたんですが、今年はCM解禁日に東京駅で記者会見を行いました。こういった発表の仕方にしても、「まず目だけ」というタレントのポスターでの起用の仕方にしても、音楽の選曲にしても、年を重ねるにつれて少しずつキャンペーンに対する世の中の注目度に合わせて変えていこうとしています。

—このキャンペーンの意図としては、やはり「スキーに行きたい」という想いを訴求するということが一番ですか。

正直、メインターゲットである若い層は安さをとってバスで行くこともあります。ただ電車で行くかバスで行くかはその時の時間や予算次第で判断されるもので、それはこの広告で細かく訴求してもしょうがない部分だと思っています。単純に雪山行きたいとか、ワクワクしたいとか、このキャンペーンでは割り切ってイメージ訴求だけにしていますね。もちろん切符を売る為の施策としてはパンフレットに広瀬すずさんが登場するなど、売場周りもしっかり準備しているのですが、CMやポスターに関してはやはりかつてそうだったように「気分を盛り上げるもの」と位置づけています。

これはJR東日本さんがおっしゃっていたのですが「キャンペーンを蘇生しよう」ということですね。「一旦(90年代に)盛り上がって凍結されたものに火をおこしてほしい」というお話を頂いたんです。となると、少し目立つこともしなければいけないし、過去のキャンペーンの良い部分も活かしながらやっています。

例えば過去のCMでも、コピー「愛に雪、恋を白。」とGLAY「Winter,Again」の歌詞「逢いたいから」「恋しくて」とのリンクは個人的に最も印象に残っていますし、同年の吉川ひなのさんの顔が大きく出たポスターも当時から印象に残っていて、「女の子が大きく出ているポスターは目立つ」と今にも活かしたり、音楽もglobeの「DEPARTURES」などは、CM用に頭だけインストで「どこまでもー」の歌い出しだけでCMが終わる、それだけの歌詞なのに「あの曲ってJR SKISKI」と覚えている、このように曲がCMの重要な一つの要素になるとか、過去に蓄積された勝ちの方程式を今この時代でやるとどうなるか、とバランスを見ながらやっています。

—JR東日本さんがこのキャンペーンを「蘇生したい」と思われた理由は何でしょうか?

やはりひとつは景気が少し上向いてきたことです。実際にキャンペーンが復活したここ数年、スノーレジャー自体のニーズも復活しつつあるようです。元々、冬に電車に乗って遊びにいく需要は温泉くらいしかなかったのですが、もっと電車に乗ってスキーに行くというモチベーションを作っていけば、いままで無かった収益も生まれるということになりますしその需要は掘り起こしていきたい、そういうチャンスがまた再び到来したのではないか、ということが理由ですね。

【Interviewee】

株式会社 ジェイアール東日本企画
クリエイティブ局
クリエイティブディレクター/コピーライター
山口 広輝さん