Case: 協和発酵キリン「10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE」

「広告」や「企業」と「音楽」の関係を、広告・キャンペーン事例に関わるクリエイター・担当者の生の声を通し探る新連載「MUSIC IN ADVERTISING」。

初回は協和発酵キリン「10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE」を取り上げます。このコンテンツは、企業ブランディングを目的に、自社の特徴を表したキーワード、ビジョンに掲げている「グローバル・スペシャリティファーマ」、社員の思いを表した 「私たちの志」などを音楽を用いて表現しています。

楽曲は10組(渋谷慶一郎/no.9/STUDIO APARTMENT/JEMAPUR/DJ KAWASAKI/blanc./Open Reel Ensemble/i-dep/高木正勝/蓮沼執太 + コトリンゴ)のアーティストが手がけ、2014年10月から2015年3月まで定期的に公開されていきます。当コンテンツのアートディレクション・アーティストキュレーションを手がけたartless Inc. CEO 川上シュンさんに「音楽で企業ブランディング」という発想が生まれた経緯から今後の展開まで、じっくりお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)

音楽は目に見えない分、最も人に想像力をかきたててくれる

—企業の特徴を音楽で表現するという、この発想にはどのようにして至ったのでしょうか。

まず、協和発酵キリンさんによるオンラインでのブランディングキャンペーンのコンペティションに声をかけて頂いたことが実施のきっかけです。協和発酵キリンさんはバイオテクノロジーを駆使した研究開発を中心にした会社ですが、社名認知度や製薬会社としての業態認知度を改善したいというお話がありました。研究者とともに大きくなっている会社なので、ただ売り上げを上げればいいということではなく、僕の中ではとても社会貢献的な会社だと感じました。スペシャリティが高い企業なので、ただ目立てばいいとか、ただ有名になればいいというわけではないですから、マスにも届けつつ、感度の高い人にもしっかり届くキャンペーンは何かないかなと考えていました。

企業のフィロソフィーをそのまま文章で伝えても分からない人には響かないですし、元々はビジュアルでの表現という考え方もありましたが、言葉を映像や絵にしたりするとより具象化してしまうんですね。そこで音楽でより抽象的に翻訳をしようという考え方です。音楽は、目に見えない分最も人に想像力をかきたてて、考えてくれるのではと。また、研究者の方は新しい薬を見つけようと日々研究していますが、それは音楽家が新しい音楽を見つけようとしていることとリンクするのではと思いました。研究者と音楽家は工程的には一緒なのではとプレゼンをしましたね。研究者出身の方もこのプロジェクトに関わっているので、この点に共感してくれました。

—一方、アーティストの方々にはどのようにプレゼンされたのでしょうか。

クライアントさんにお話をした内容とほぼ一緒ですね。最初に話をしたのは渋谷(慶一郎)さんでした。「こういうプロジェクトを考えているんですけれど、どう思いますか?参加して頂けますか?」と聞いたら「いいね、面白そう」と。今回10組選んだアーティストは、以前仕事をしたり、友人もいたり、ある程度パーソナリティを知っていて「共感してくれるだろうな」という人に僕から声を掛けました。

特に、今回はYouTubeとSoundCloudにも載せるので「JASRAC(の登録)を外してほしい」とお願いしているんです。そういうクラウドのメディアに自分の作品を載せることにポジティブな人に参加してほしいし、これからのミュージシャンはそうあるべきだと僕は思っているので。音楽が売れない時代だと言われている中、違う形でステージを変えられるような人に相談したいなと思いました。

今回は特に「テクノロジー」を感じる方、音楽にテクノロジーをちゃんと使って、新しい音楽を生んでいる人にフォーカスしてキュレーションさせてもらっています。例えば渋谷さんだと、デジタルとピアノを上手く組み合わせているし、ノイズという音楽ジャンルを広げた方だし、STUDIO APARTMENTのお二人やDJ KAWASAKIさんの音楽はまさにテクノロジーを感じさせるものだし、高木(正勝)さんもまさにエレクトロニカのジャンルを作ったような一角の方だし、そういう方達は時代をちゃんと理解して見えているから、YouTubeとかSoundCloudとか、クラウドサービスを上手く使って自らの曲を広げることを意識している方が多いんです。


クライアントとアーティストが、お互いにフラットな関係で

—アーティストのインタビュー動画では、研究施設に足を運んでいる様子なども出てきますね。

そうですね。まずは資料を読んでもらったり、可能な方は研究所に行ってもらったりしました。例えばDJ KAWASAKIさんにはシンガポールの施設を見てもらって、研究所の方と話をしてもらっています。

(このような機会をセッティングしたのは)クライアントからのオーダーワークというより、コンセプトを題材に音楽をつくる、つまりクライアントとアーティストがお互いにフラットな関係で音楽をつくってほしかったからです。企業がアーティストを使うという考え方が広告の場合は多いですが、もっとフラットな関係性であれば、より良い音楽ができるのではないかと思います。

「アーティストを尊重して依頼するので基本的に修正は出来ません、信じて下さい。ちゃんと現場を見て、その現場に感動した心で作るから絶対にいいものが出来ると思います」という話はよく(協和発酵キリンさんへ)していましたね。そしてそれを信じてくださる企業さんでしたね。

(シンガポールの研究施設を視察するDJ KAWASAKIさん)

—最初から「信じる」というスタンスだったのでしょうか。

そうですね、やはりプレゼンのタイミングから「研究者と音楽家は同じ」というところに共感を持って頂けたことが大きいですね。

—協和発酵キリンさんが曲を耳にされた際の反応はいかがでしたか。

面白いですよ。僕が逆に緊張しました(笑)。CM音楽じゃないので企業をあくまで「題材」として、アーティストは自分のいつものスタイルで音楽を作るわけです。それを協和発酵キリンの皆さんは、ちゃんとそれを紐解こうとしてくれるし、「自分たちのやっていることを、こんなかっこいい音楽で表現してくれるなんて嬉しい」と、ものすごく喜んでくれるんですよ。今回のプロジェクトは外へのブランディングでもありますが、僕の中では社内ブランディングとしてのプロジェクトでもあると思っていました。なので社員の方が喜んでくれたのはとても嬉しいですね。

(DJ KAWASAKIさんとアートディレクション・アーティストキュレーション担当の川上シュンさん)

—ユーザーの反応はいかがでしたか。

非常に良い反応だと思います。大きな数字のバズが起きているわけではないけれど、アクセスログを見る限り、ちゃんとコンセプトのページまで読んでくれています。また、アーティストも喜んでやってくれていて、彼らがどんどんツイートもしてくれるのでアーティストのファンの方にも深く届いているのではと思います。

—どういった層の方が興味を持っている、とお考えですか。

知的好奇心が高い人、昔でいう「CDの解説を読む」ような人ですね。今回登場するアーティストのファンの人達は、比較的知的好奇心が高い層だと思います。そういった人達に届かせたかったので、「協和発酵キリン」の名前を覚えてもらって、「いいプロジェクトをやっている会社だね」だとか、「そういう会社に入りたい」と思ってくれると嬉しいですね。

アーティストも「イベントとかライブとか、このメンバーでやりたいね」と言ってくれる

—今後の展開はいかがでしょう。

4月頃にレセプションパーティー的なイベントをやろうと思っています。アーティストもよく「イベントとかライブとか、このメンバーでやりたいね」って言ってくれるんですよ。まずはオンラインで10組リリースしたあと、その10組の中から、スケジュールの合うメンバーで、クロージングなのか、第2ステージのスタートなのかはまだ分からないですけれど、一区切りとして企画しています。

—“音楽を使った企業キャンペーン”の可能性については、どのようにお考えですか。

もっとあるべきだと思います。ミュージシャンが企業とともに音楽を作る、企業がパトロン的立ち位置でアーティストをバックアップする、ということは今後もっとあるべきだと思います。今回のような、オーダーワーク的ではない、企業のブランドイメージを高める為にアーティストと一緒に音楽を作るというやり方の方が絶対いい音楽が生まれるのではと実際にやってみて思いましたね。

—川上さんご自身も、こういったプロジェクトは今後チャレンジしてみたいですか。

やってみたいですね。僕は”ビジュアルを作る人”で、”音楽を作る人”ではないので、今回はディレクションとプロデュースという役目でしたが、アーティストが「どう思う?」と聞いてくれて、それに対してのディスカッションをするのも面白かったです。SpotifyもあればSoundCloudもあれば…そんな世界中の音楽がクラウド上に転がっている中では、次に音楽は今回のプロジェクトのようなステージに行くのではと感じます。今回参加してくれたメンバーとも信頼関係ができているので、良いコラボレーションが今度も出来るのではと。また一緒に仕事をしたい10組です。

また、僕らartlessという会社は一個のWEB、一個のグラフィックのデザインだけではなく「ブランドデザイン」、つまりもっと大きなイメージをデザインするということにフォーカスしています。このプロジェクトではアーティストのキュレーションも、音楽を作ってもらうことも、企画・アイデアも、全て「ブランドデザイン」に通ずるものとして取り組むことが出来ましたね。

【Interviewee】

artless Inc.
CEO
川上 シュンさん