気鋭のクリエイターが、アーティストや俳優などの表現者とタッグを組み、新しい形の動画作品を制作する番組『○○と新どうが』(テレビ東京で月~木曜 深夜1時30分/金曜深夜1時53分より放送)。完成作品は「LINE LIVE」にて「Portrait Film Project」としてアーカイブ。番組放送と連動しての生配信なども行われています。

AdGangでは、この『○○と新どうが』で動画作品を手がけたクリエイターに取材。作品の内容とともに、制作過程で感じた”縦型動画”の可能性なども伺っていきます。

OA第6弾は「女性に蹴られたいと思いながら生きている男性は多い」と語る映像コレクター コンバットRECさん。アクション女優として活動の幅を広げる山本舞香さんにひたすら蹴られ続けるという動画を完成させました。コンバットRECさんに制作の舞台裏について伺いました。

「左右が狭くなった」ことを生かす

―どういう経緯で「蹴られる動画」というアイデアが生まれたのでしょうか?

有り体に言いますと、僕は昔から女性に蹴られたいという願望があるんですね。子供の頃に志穂美悦子さんの『女必殺拳』を観て衝撃を受けたあたりが原点ではないかと思うのですが。友人や周囲の人と話していても蹴られたいという気持ちを抱えて生きている人というのは思いのほか多くて、少なくとも僕の周りでは多数派と言って差し支えないくらいほとんどの人が抱えている願望なんですね。

今回は縦型なら何やってもいいよ、ということでしたので、この機会にその願望を映像化してみました。

具体的な映像の話をすると、今回のお題がスマホでの視聴を想定した縦型動画ということでしたので、まずは画角について考えてみました。縦型だと、普段観ているテレビや映画の画面とは縦横比が逆になりますよね。例えばテレビですと16:9の画面で2:1に近いのですが、これは人間の視野が横に広く、縦のおよそ2倍というところから来ています。

それが逆になったということを「上下が広くなった」か「左右が狭くなった」か、どちらで捉えるか—スマホは手のひらサイズで視野を占有するものではないので、今回は「左右が狭くなった」と考えることにしました。つまり、今まで見えていたものを見せないようにすることができるわけですね。

ということで、ギリギリまで見えない面白さを効果的に表現すべく、横スクロール動画を製作しようと考えました。鳥獣戯画のような絵巻物のイメージです。「次はどんな風に蹴ってもらえるんだろう?」と最後までワクワクしながら観られるものを目指しました。

―数々の芸人さんが蹴られていますが、そのキャスティングはどのように決めていったのでしょうか?

いわゆるバラエティ番組的なリアクション合戦みたいなことになってしまうと意味が変わってきてしまいますので、オーディションでは皆さんに「私が蹴られるべき理由」をプレゼンしていただき、その理由が納得できる方を選びたいと考えました。

人間、いい歳になると自分のダメなところがわかってくるじゃないですか。でもなかなか直らなかったり、自分を甘やかしてしまったり…そんな自分に罰を与えたいという気持ちがみんな潜在的にあると思うんです。それを皆さんに語っていただきました。

ただ、芸人さんは案外真面目で「いや、あなたは何も罰を受ける必要ないですよ!」という方も多くて。だからオーディションで落選した方のほうが人としては正しくて、選ばれた方々は「絶対に罰を受けるべき!」と感じた人たちです。



―撮影はどのように行ったのでしょうか。

ノーマルスピードで撮影すると動きが一瞬で終わってしまいますので、ハイスピード撮影が必須でした。今回、出演してくださった山本舞香さんは空手の有段者ですから蹴りも速く、最低でも30倍程度、1,000コマで撮る必要があると考えました。

大変だったのは「スマホで撮影する」というレギュレーションですね。1,000コマで撮れるアプリは割と有名なものがあるので、それで撮れば大丈夫だろう…と最初はタカをくくっていたのですが、実際にテスト撮影してみると絞りやシャッタースピードが調整できなかったり、フォーカスが怪しかったりして、テレビのオンエアには耐えられないことがわかったんですね。

そこからが大変でした。その後色々調べまして、4倍・120コマしか撮れないものの絞りとシャッタースピードは調整できるというアプリを発見したので、そのアプリとTwixtorというAfterEffectのプラグインを組み合わせて使用することにしました。Twixtorというのは前後のフレームを解析して、間に入るフレームを補間してくれるプラグインで、後処理でスーパースローモーション動画を作成することができます。

ただ、このプラグインも前後のフレームの情報が足りないと機能しないので、蹴りのような速い動作の場合はノーマルスピード素材では全くフレーム補間機能が働かず、4倍・120コマ撮影の素材でなんとか機能してくれるという感じでした。この手法に辿り着くまでに、何十回もテスト撮影を重ねました、今回一番大変だったのはそこですね。

―BGMも疾走感のあるものでした。

もともと考えていたのは神々しいイメージの静かな楽曲だったんですが、映像に当ててみたら冗長でどうにも煮え切らない感じだったので、そこからいろいろ試して最終的にこの曲に辿り着きました。Upsets Feat.Zeroの『Groove On&On&On (Tetsu Remix)』という曲です。この曲を当ててみて、罰を受ける時の高揚感を表現してくれるのはやっぱりダンスミュージックなんだな、と気づきました。楽曲の使用を快く許可してくださったDJ Yogurt氏に感謝です。



縦型動画は広告にも合う

―今後制作してみたい縦型動画作品があるとしたら、どのようなものですか?

「見せないことで面白くなる構造のドラマ」が作れたりしたら面白いんじゃないかと思いますね。例えばホラーやサスペンス劇。どこに何が潜んでいるかが見えないことでより緊張感や恐怖が増す—そんなドラマが作れたら面白いんじゃないかなと思います。

―縦型動画は今後どのように活かされていくと思いますか?

もともとポスターは縦型が多いので広告との相性は良いと思います。最近はデジタル・サイネージなんかも縦型が増えてきましたよね。映画やドラマは人間の視野を完全に占拠して作品世界に没入させるものですが、広告は街の風景の中で目を引ければいい、視野を完全に占拠する必要がないものですから。MVなどもプロモーション映像と捉えれば縦型との相性は良いでしょうし、ニュース映像なんかも縦型の需要が高まってくるんじゃないでしょうか。

ポスターに限らず、雑誌などでもそうですが、縦型になったら縦型用のアングルやデザインにすれば良いだけなので、スチールカメラマンやデザイナーは縦型のハードルは全く感じないと思います。戸惑いを感じている人間がいるとしたら、いままで横長の画面だけで技術継承が行われてきたムービーディレクターとムービーカメラマンかもしれません。

あとはやっぱり誰でもスマホですぐに撮影できる、観られる、というカジュアルさとスピード感ですよね。スマホのハードとしての進化も早いですし、需要があれば新しいアプリがどんどん出てきますから、SNSとも連動しつつ今後さらにやれることが増えてくると思います。

まずはいま横型でやっているものも、縦型でチャレンジしてみたら良いんじゃないかと思いますね。不都合も出つつ、メリットも出つつと、やってるうちにいろんなことが見えてくるのではないかと思います。

―最後に、この動画の楽しみ方などがありましたら一言いただけますか?

まずは(蹴られたいと願っている)多数派の方に、楽しんでもらえたらと思います。さらに、人に蹴られるなんていままで考えたこともなかったけどこの映像で新しい扉が開いた、という方がもしもいたら嬉しいですね。

山本舞香と新どうが created by コンバットREC
http://www.tvtokyo-play.com/series/marumaru-shindouga/0011.html

『○○と新どうが』次回は9月8日(金)25時53分OA。映画監督・木村好克さんと、川栄李奈さんによる作品が紹介される。