気鋭のクリエイターが、アーティストや俳優などの表現者とタッグを組み、新しい形の動画作品を制作する番組『○○と新どうが』(テレビ東京で月~木曜 深夜1時30分/金曜深夜1時53分より放送)。完成作品は「LINE LIVE」にて「Portrait Film Project」としてアーカイブ。番組放送と連動しての生配信なども行われています。

AdGangでは、この『○○と新どうが』で動画作品を手がけたクリエイターに取材。作品の内容とともに、制作過程で感じた”縦型動画”の可能性なども伺っていきます。

OA第4弾は、これまでも『東巨女子』という、大きくなった女性が街中を歩く作品を手がけている映像監督・松宏彰さん(株式会社ティー・ワイ・オー SPARK)によるもの。モデルや女優として活躍する玉城ティナさんが、「ピンチアウト」=スマホの画面を2本指で拡大させる動作により徐々に巨大化。東京の街並みに巨大化した玉城さんが登場するという動画になっています。ただ、これまでの特撮映画などと異なり、巨大化した玉城さんは街並みを破壊したりはせず、一人の女の子としての日常を楽しむという点が特徴的です。松さんに、今回の動画制作の舞台裏について伺いました。

日本人が得意な”脳内AR”

―巨大化しながらも、街を壊すわけではないという点がこれまでの特撮ものと異なる点ですよね。

スマホの中の世界は、SNSでさえもファンタジーではないかと思っているんです。例えば山手線に乗っていてもほとんどの人がスマホを見ている。電車に肉体は乗っているけれど体験としては乗っておらず、自分のファンタジーの世界にいるんだなと。つまりスマホを使って自らの望むファンタジーに作り変えているんだなと捉えています。そのようなファンタジーの世界で見るものとしたら、自分の街が壊されると嫌ですからね。

―ロケ地は渋谷が多いところが、玉城さんのキャラクターにもマッチしていますよね。ロケ地はどのように決めたのでしょうか?

そうですね、ティナさんのキャラクターに合わせると渋谷か原宿だろうなと。もう一つの理由は、渋谷は街のサイズがちょうどいいということです。映像の手前に人混みがあって向こうにビルがある、そういう風景が一緒に撮れるのが渋谷でした。これが新宿や丸の内になると画面はビルで埋まってしまいます。人が暮らしている生活空間と街の感じが一枚絵でちょうどよく撮れるんですね。



―渋谷は開発も進んでいるだけに、まさに今、2017年の渋谷を切り取った作品とも言えますよね。

そうですね、5年ほど経てばまたビルが増えて、今の”ちょうどよい”感じとはまた変わってくるかなと思っています。実は2003年に、六本木ヒルズのオープニングの展覧会で使われた『東京スキャナー』という映像を監督した時に「これは時間が経てば経つほど価値のある映像だ」と言われたんです。2年前にブルーレイが発売されたのですが、改めて見直すと「なるほどな」と。東京が全然違うんですよ。当時は六本木ヒルズの周りに(高いビルが)何もなくて、六本木ヒルズの周りでヘリを飛ばしましたが、今はビルも多くてヘリは飛べせないですよね。

―『東京スキャナー』『東巨女子』そして今回の作品と、東京をモチーフにしている作品が多くありますが、独自の”東京観”のようなものをお持ちなのでしょうか?

関西出身なので、よそ者の目線という一個レンズフィルターをとおして常に見ていますね。東京は巨大な実験室的なところがあると思っています、日本中のいろんな人たちが自分たちの文化を持ってやってきて、それが共存している結果、それがなんとなく独自のものになっている。さらに今は海外の人もやってきてカオスになって来ていると思います。常に何かが起こっている。カオスで孤独で気持ち悪い部分もあるかもしれないけれど、でも一周回ってすごくハッピーな場所かもしれないと思っています。そんな東京をハッピーに見せたいなというのがこの動画です。電車の中でスマホを見た時に、渋谷で降りたら、あそこにティナさんがいるかもと思ってもらえるような。いわば”脳内VR”です。日本人はテクノロジーを使わずに、昔からARをやっていると思うんですね。
僕は妖怪研究家という肩書きも持っているのですが、妖怪もつまりはARのようなものだと思います。日常の中に非日常なものをオーバーレイして見る。そういうことによって、色んなことがエンタメになっていく。日本人は古来こういった能力がすごくあると思っています。



―衣装も様々なものが出て来て鮮やかですね。

セイショーコさんというスタイリストさんにお声がけさせていただいて、大きくなるにつれ日常から非日常という感じを表現しています。最初はでかくなっちゃった自分を友達と楽しんでいる感じですが、40mになってしまうと等身大の友達と会話も遊ぶこともできない。友達と遊べないから街と遊ぶ。ある種のメタファーとしては「メディア発信する彼女」という感じですかね。さらに200mになれば東京のランドマークという位の、孤高の存在なわけですよね。ランドマーク的な衣装が良いなと思っていたのですが、ちょうど東京タワーとペアルックな感じの衣装を見つけることができました。

実際にスマホを使いロケハン

―撮影や過程で大変だった点はありますか?

ロケハンですね。スマホで縦のアングルをきると全然印象が違うんです。実際にスマホで覗きながら探索しました。意外と面白かったのは通学路で友達と「おはよう」と話すシーンですね。頭の上にものすごく多くの電線が通っているんですね。その切り方は普段できないので。エレベーターから出てくるシーンやガラス張りでエレベーターを上がっていくシーンは元々縦にハマるなと思っていました。



―合成するにあたってはどのような手順を踏んでいったのでしょうか?

今回はあえてスマホの簡易合成アプリを多用しました。僕がアングルハンティングで撮った写真に、事前にティナさんのフィッティング時にいくつかのアングルを撮らせていただいた写真を合成して、そのアタリを見ながらアングルを決めて、改めてそれを元にスタジオで撮影しました。

―編集の面ではいかがでしたか?

10m以上など、普段僕らが生活していて高いな・遠いなと思うぐらいの高さに関しては、実はグラデーションでモヤをかけています。それはコショウを一振りするぐらいの工夫ですが、水墨画で山に雲がかかっているように、うっすら気づかないぐらいで入れると、大きさの見え方が全く違うんです。

横とは異なった没入感

―最後に、松さんの考える縦型動画の活かし方について伺えますか?

そもそも、風景と人を入れ込むような動画やスチールに縦型は不向きとされていますよね。ただ、不向きとされているならあえてやろうと開き直ってやってみると、新しいアングルの切り方が見つかったなと思っています。
スマホ動画、つまり手のひらの上で映像を見るということはある種のミニチュア感があって楽しいですね。映画館で見る没入感とは全く違った、映っているものと一対一で向き合っているという意味での没入感です。独占している、所有している、自分だけが特別な友達のような感覚というものかもしれません。視聴者の妄想がより働きやすい視聴環境ですし、やはり日本は昔から脳内AR的な妄想力に長けているので、視聴者のイマジネーションを刺激するような動画、視聴者のクリエイティビティを刺激するような動画は多分次々と出てくると思います。
僕はAR・VRは面白いし好きですけれど、テクノロジーを一生懸命学ぼうというより、やはり脳内ARに興味がありますね。「この映像を見た後に街が違って見えるよね」などと、”人間の脳の中にあるAR装置”を起動させる動画に興味があります。妄想はテクノロジーの進化に淘汰されないですから。

『○○と新どうが』次回は8月25日(金) 25時53分~26時00分OA。映画監督・瀬田なつきさんと、中川大志さん・田辺桃子さんによる作品が紹介される。

玉城ティナと新どうが created by 松宏彰 http://www.tvtokyo-play.com/series/marumaru-shindouga/0005.html