Case: ネスレ日本『バレンタインポスト』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、ネスレ日本のチョコレートブランド『キットカット ショコラトリー』のWebコンテンツ「バレンタインポスト」を取り上げます。「バレンタインポスト」は、Web上でバーチャルなチョコを贈り合えるサービス。フェイスブックまたはツイッターでログインし、マイポストを設置することで、チョコを贈ったり、受け取ったりすることができます。ミッションクリアで『キットカット ショコラトリー』の引換券がもらえる仕組み、チョコ図鑑でレアチョコを集めるゲーム性により、多くのユーザーを獲得。トータルシェア回数は150万回を突破しました。

企画が立ち上がった経緯から、制作秘話、大きなバズにつながった秘策まで、株式会社パーティー クリエイティブディレクター 中村大祐さん、インフォメーションアーキテクト 阿久津達彦さん、株式会社バードマン クリエイティブディレクター 長井崇行さんにお話を伺いました。

Interview & Text : まきだ まどか

今のバレンタインの実態ってどうなっているの?

―今回の企画「バレンタインポスト」がスタートしたきっかけについて教えてください。

中村:ネスレさんから『キットカット ショコラトリー』の認知度を上げるためのデジタル施策を実施したいというご相談があったのが始まりです。『キットカット ショコラトリー』の現状についてヒアリングし、認知度向上のために何をするのがベストかクライアントと話し合いながら、一緒に企画を考えていきました。
『キットカット ショコラトリー』は1本300円から500円の高価格帯のチョコレートなので、普段の自分用のお菓子ではなく、需要があるのはやはりプレゼントです。11月にご相談いただき、12月にご提案というタイミングでしたが、バレンタインに間に合わせようとプロジェクトがスタートしました。

―どういった思考を経て、「バレンタインポスト」というコンセプトに行き着いたのですか。

中村:最初に、今のバレンタインが昔とどのように変化しているのかについて話し合いました。従来のバレンタインは、女性から男性へ告白をして、チョコレートをプレゼントする文化でしたが、現在は、友達への“友チョコ”や、会社や学校でたくさんの人に配る“シェアチョコ”も流行っています。バレンタインの意味合いが多様化し、単純に「バレンタイン=告白」という文脈ではなくなってきているんです。
そこで、今回の企画では、告白のためのツールではなく、もっと気軽にチョコを贈り合える“コミュニケーションツール”を作ろうということになりました。

―チョコレートという物自体が重要なのではなく、チョコレートを贈ることをコミュニケーションの手段だととらえたんですね。

中村:贈るものは、本物のチョコレートではなく、バーチャルチョコでよかったんです。そうすれば、もっと気軽にチョコを贈ることができます。実物のチョコを贈るのって、案外ハードルが高いんです。贈る方は、相手は喜んでくれるのか、ホワイトデーのお返しに気を使わせてしまうのではないかと考えますよね。バーチャルチョコにすることで、そういったことも気にしないで済むので、たくさん贈るようになるんじゃないかと考えました。

―今回の企画が話題を呼んだのは、ユーザーのどんな心理を押さえたからなのでしょうか。

中村:今回の企画でひとつの大切なポイントは、「チョコを贈りたい」という気持ちに寄り添ったのではなく、「チョコがほしい」という気持ちを基点にしたことです。チョコを待ち受けられるポストを設置して、自分からチョコが欲しいとSNS上で宣言してもらいました。そうすれば、くれる人はきっといます。結果として、たくさんのユーザーさんにバーチャルチョコを贈り合ってもらえました。

これまでになかったサービスだからこそ「ポスト」というアイコンが必要だった

―「バレンタインポスト」は、シンプルなようであまりなじみのない仕組みですよね。

中村:ネット上でチョコを贈る習慣はそれまでなかったので、バーチャルチョコといっても、どういう仕組みなのか理解が難しく、使ってもらうにはハードルがありました。そこで、「ポスト」をアイコンとして、企画内容を具現化したんです。ネット上に自分のポストを作り、そのポストに自分宛てのチョコが届くという流れを示すことで、仕組みが直感的に分かりやすくなりました。
ネーミングも、「キットカットポスト」ではなく、バレンタイン全体で盛り上げたいということで、「バレンタインポスト」にしました。

―バーチャルチョコを贈ったり、もらったりすることで、実物の『キットカットショコラトリー』の商品がもらえたそうですね。

中村:一定のミッションをクリアすると、『キットカット ショコラトリー』の店舗またはバレンタイン期間限定の催事場で『キットカット ショコラトリー』のチョコレートの引換券がもらえます。今回の企画を通して、最終的に1万5000個を配りました。
今回の企画は、単純なキャンペーンではなく、ソーシャルゲームに近いものです。あえて複雑な機能や難易度の高いミッションも追加し、ゲーム性を高めています。

阿久津:チョコ図鑑でレアチョコを集めて楽しむ人もたくさんいました。ツイッター上などで、自分の持っていないレアチョコをもらい、相手が持っていないレアチョコをあげるというチョコ交換のコミュニケーションが生まれ、「#レアチョコ交換」のハッシュタグがユーザーから広まりました。ユーザー同士で協力してチョコを集め、もらったチョコについてツイートする人も多かったですね。

レアチョコ一覧

―ポストにもいろいろな種類があり、自分の好きなポストを選べるんですね。

中村:ポストのキャラクターはウサギ風、サラリーマン風、王様風など15種類用意し、それぞれに個性を持たせています。このキャラクターがユーザーの代わりに周りの人にチョコをおねだりしてくれるので、「チョコが欲しい」といいやすいんです。「そろそろおねだりしたら?」とか「バレンタインデーまであと2日だよ」というような運営側がいいたいことを代わりにユーザーに伝える役割もあります。

―贈るチョコレートに自分で「○○○チョコ」と名前を付けて贈れるようにするというのもおもしろいですよね。

中村:相手に何らかのメッセージを伝えてコミュニケーションを取れるように、20文字以内で、自分でチョコに名前を付けられるようにしました。このことが今のバレンタイン文脈にマッチし、大喜利などのSNS上の盛り上がりにつながりました。より幅広く、おもしろい使い方をしてもらえたと思います。

演出やコピーライティングのディテールがユーザーの楽しさにつながる

―制作についてはどのように進んだのですか。

中村:12月初旬に企画をご提案しました。12月中は構成を詰めて、デザインと実装は1月からです。2月1日に公開だったので、かなりのハードスケジュールでした。

長井:私の会社は、デザインと実装を担当しました。キャンペーンサイトを作るというよりも、アプリやサービスをひとつ作るくらいの感覚で制作しました。使いやすさとともに、バーチャルチョコを贈るという体験をより楽しいものにできるよう細かな点まで意識して作り込みました。特にこだわったのは、ポストのキャラクターの個性に合わせた動き、チョコを贈ったり受け取ったりするときの映像表現です。

中村:そういった細かな演出があったからこそ、キャラクターの個性が際立ち、シェア数が伸びたのだと思います。ゲーム感覚でユーザーに楽しんでもらうためには、細かな演出が必要でした。

阿久津:今回の案件では、ディテールの作り込みがシェア数に結び付いていると思います。そういった意味では、コピーライティングの力も大きいです。キャラクターの性格を表現する台詞やサイトの言葉一つひとつをコピーライターと一緒に作りました。10代~20代前半のターゲット像を想定して、言葉遣いをフランクにするなど、細かな点までこだわりました。

ファンの「贈りたい欲」を満たし、バズをさらに盛り上げた

―訪問者数やシェア数など、どれくらいの数字につながったのですか。

中村:2月3日から14日までリアルタイムの訪問者数は、1万人を超えた状態がずっと続きました。公開から15日までのデータでは、参加者数は約62万人、サイトからSNSにシェアされた回数は約150万回、贈られたバーチャルチョコの数は、約500万個にもなりました。また、ツイッターのトレンドワードの上位もキープし続けました。

―SNSではどのような反応がありましたか。

中村:キットカット ショコラトリーの写真とともに、実店舗へチョコを受け取りに行ったユーザーの報告ツイートがアップされたり、「キットカットが食べたくなった」という声も多く、購買にもつながりました。アニメ絵師によるイラストツイートも盛り上がり、5000を超える「いいね」が付いたツイートもありました。

長井:今回のキャンペーンに携わり、ユーザーの反応を見て感じたのは、意外に多くの人が「贈りたい」という気持ちを深層心理として持っているということでした。絵師さんやユーチューバーさんなど、SNS上でファンの多い人たちのもとへファンのみなさんからのバーチャルチョコがたくさん贈られました。
ファンの方々の「贈りたい欲」みたいなものをこのサービスで満たすことができたのだと思います。SNS上の有名人とファンの間のコミュニケーションのきっかけを与え、うまく成立させられたことが、約2週間の長いバズを生み出した要因のひとつになったと考えています。

―今後の展開について教えてください。

中村:今の段階では、まだ何も決定していませんが、できれば来年もやりたいですね。機会をいただけるなら、今回得た知見をもとに、アップデートしたものを作りたいです。毎年恒例の企画として定着し、バレンタインといえば、「バレンタインデーポスト」というくらいの認識を世の中に作れたらいいですね。

「バレンタインポスト」プロジェクトメンバー集合写真
(写真左から)株式会社パーティー インフォメーションアーキテクト 阿久津達彦さん、株式会社パーティー クリエイティブディレクター 中村大祐さん、株式会社バードマン クリエイティブディレクター長井崇行さん、株式会社パーティー コピーライター 大津裕基さん
(手持ちパネル内写真左から)株式会社パーティー アートディレクター 石塚美帆さん、株式会社バードマン プロジェクトマネージャー 横川遥さん、株式会社バードマン デザイナー 三島良太さん、株式会社バードマン フロントエンドエンジニア 鳥居駿平さん