Case: コンバース「ALL STAR」100周年施策『ALL STAR HACK』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回は、コンバース「ALL STAR」100周年施策『ALL STAR HACK』を取り上げます。

1917年に世界初のバスケットボール専用スニーカーとして誕生して以来、不動の定番スニーカーとなったコンバース「ALL STAR」。 このたび誕生から100周年を迎えるにあたり、定番として愛されているデザインはそのままに、アウトソールやインソールなどを大幅に改良した「ALL STAR 100」が発売されました。

この改良点に着目してもらおうと制作されたのが、今回の『ALL STAR HACK』。アウトソールにスピーカーを搭載した「ALL STAR 100 SPEAKER」、九九の式を問うと答えを返す「ALL STAR 100 AI」、インソールを押すと「もっと、もっと」と気持ちよさそうに答えてくれる「ALL STAR 100 SHIATSU」の三つのプロトタイプを発表し、コンバースの進化ポイントを訴求しました。これらのプロトタイプを制作した、株式会社博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング1部 インタラクティブプラナー 木下剛さん、同 Future Create Lab R&Dチーム テクノロジスト/インタラクティブエンジニア 茶谷亮裕さんに、開発のいきさつやプロダクトのこだわりについて伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美

 

“ALL STARのありえない進化案”が、プロダクトのベースになった

—スタートのいきさつは、どういうものだったのでしょうか。

木下:去年の2月ごろ、株式会社SIXの坪井卓さんから声がかかったんです。「興味があったら、どう?」くらいの軽い話だったのですが、せっかくの機会だからと最初の打ち合わせに参加したら、帰りがけに「ALL STARのありえない進化案を考えてきて」と宿題が出されました。

坪井さんも始めから何かを決めるというより、まずはアイディアを散らかしたいと思われていたようで、ALL STAR大喜利のように提案しては、また宿題を持って帰る、というのを繰り返すうちに、今回のプロダクトのベースとなるものが見えてきました。

—具体的に、どういう話が繰り広げられたのですか。

木下:僕らとしては、ALL STARの進化ポイントをフォーカスしていきたいので、例えばアウトソールだと、「見た目がスピーカーっぽいですよね」とか。坪井さんは、側面の二つの穴をつぶしたいと言っていたので、「じゃあ、イヤホンジャックに見立てましょうか」なんて話をしながら、実際にALL STARを買ってきて、アウトソールをくり抜いてスピーカーをはめ込んでみたり。そんな風に話が進むときもあれば、8時間くらい雑談して何も決まらずに終わった回もありました(笑)。

各プロトタイプの元となった「ALL STAR 100」

—プロトタイプを考えるうえで、コンバースのブランドイメージをどのように分析されたのでしょうか。

木下:コンバースには、『Design Yourself.』という考えかたがあって、ファンの方もそのとおり、自分なりの履きこなしを楽しまれています。皆さん、ただの靴好きというよりも、「コンバースが好き」というブランドへの思い入れが強いんですよね。ALL STARのフォルムが100年間変わっていないのも、皆さん、この形状が好きだからです。その一方で、素材を中心に細かい改良が繰り返されているのですが、その部分をポスターや映像で見せようとしても、なかなか分かりづらい。この点をどうクリアしていくかを考えたときに、実際に見て触ってもらえればよいのでは、と考えました。

加えて、コンバースには、やんちゃなイメージがあると思っています。例えば、机に足を載せることは無作法ですが、「おすすめの曲があるので聴いてください」と、どんと足を載せる絵面は、バカらしい世界観なんだけれど、下品じゃない。「ALL STAR 100 AI」を紹介するのに、“七歳児並みの知能”とコピーを付けたのも、外しかたにコンバース感を出していこうという考えからです。コンバースならではの世界をとおし、コンバースをさらに好きになってもらえれば。すべての案は、この視点から生まれ、精査されていきました。

—提案したときのクライアントさんの反応を教えてください。

木下:先方には、五つ提案したのですが、「打ち合わせでこんなに笑ったのは初めてです」という内容のメールが、後日届いていました。やんちゃな施策と同時に、いわゆる格好良い系の施策も提案したのですが、「その案は普通すぎるので、やんちゃなほうで行きましょう」と、今回の案が採用されました。

話題をさらった、三つのプロトタイプ

—プロダクトそれぞれのこだわりを聞かせてください。

木下:まず、「ALL STAR 100 SPEAKER」ですが、こういうプロダクトでおもしろいものをつくってしまうと、「どうせ冗談でしょう」と、エイプリルフールみたいになってしまいがちです。なので、歩いたり踊ったりしても大丈夫なように製品レベルのものをつくることにこだわりました。

今回は予算との兼ね合いもあり、ベースは僕たちでつくりました。秋葉原にある専門パーツを扱うショップに既存モデルを持って行って、「底をくり抜いてスピーカーを入れたい」って相談したら、「ちょっと分からないですね」ってかわされたりしつつ(笑)、試行錯誤を繰り返しながら4号機までつくったところで、完成形が見えてきました。

木下:また、プロモーションも、プロダクトが遊んでいるぶん、かっこいい世界観をつくることを前提に進めていきました。ただ、アウトソールで音が鳴るのって現実世界では考えにくいことなので、その普通からかけ離れたシューズを、本当にかっこいい優れたプロダクトとして見せるにはどうすればよいかのかを考えるなか、スピーカー付きシューズでスケートボードをする人々がいる世界にたどり着きました。ムービー制作にあたっては、アートディレクターの長嶋慎さん(株式会社博報堂)の意見が色濃く反映されています。

茶谷:一番大変だったのは、「ALL STAR 100 AI」ですね。最後まで完成するか、予想が付きませんでした。

木下:アッパーをディスプレイにするアイディアもあったのですが、それだと予測が立って驚きに欠けるという意見が挙がったため、生地の色が変わる現在の案に落ち着きました。最初は電子ペーパーを使おうとしたのですが、その上に生地を張っても発光するだけで、数字を出すのが難しくって。結果として、感熱インクを使う案に落ち着きました。

—生地も特別なものを使っているのでしょうか。

茶谷:いえ、普通のものです。本当は白いコンバースでやりたかったのですが、温度設定の習熟度の高い黒い生地を使うことになりました。ただ、これは黒いコンバースを使っているのではなく、白いALL STAR 100 を黒色の感熱インクで染めた生地を張り付けているんですよね。というのも、ALL STARは製造段階において一度オーブンで焼くため、その工程を経てしまうとインクが壊れてしまうんです。そのため手作業で生地を張っていますが、張ってくれる職人さんを探すこともまた一苦労でした。

—九九の認識ですが、「に かける に」でも、「に にん」でも、反応する点に驚きました。

木下:九九って、ジャンケンのように色々な言いかたがあるので、そのどれでも認識ができるように人工知能を組み上げました。チームスタッフが音声認識システムに向かって順番に九九を言い、間違った認識結果をシステムに反映するという地道な作業を繰り返しています。

茶谷:他にも、音楽のロック、英語で岩を指すロック、といった誤認識や言い間違いなど、想定できるパターンをすべて織り込んでいます。

木下:ローンチパーティのときに、お客さんがAIの横で「〇〇さんにさあ……」って話していたら、6って表示していましたけどね(笑)。そんなふうにかなり忠実なんですよ。とにかく九九だと思われる言葉すべてに答えを返す部分を含め、AIには一番骨が折れました。

茶谷:三つ目の「ALL STAR 100 SHIATSU」は、以前、足踏みを検知する什器をつくったときの経験が生きました。こちらは、指で押してもらえれば、インソールの良さが分かることを訴求しています。

—続いて、オフィシャルサイトについて聞かせてください。

木下:ウェブサイトのアクセスは、圧倒的にスマホが多いと聞いていましたので、設計もスマホを念頭にしています。メニューボタンを左上に設置するサイトが多いのですが、「親指が届きにくい。押すときにスマホを落としそうで怖い」という話を担当のデザイナーがずっとしていたので、その点も考慮したデザインに収まりました。メニューボタンを押すと、左下に向かってガクッと画面の割れる部分を含め、インタラクションにはずいぶんこだわってくれたおかげで、評判も上々です。今回、入社2〜3年目の若いスタッフの多い編成だったので、彼ら・彼女らの感性が様々な部分に反映されています。

—展示の様子はいかがでしたか。

木下:クライアントさんから「こんなに盛り上がったのは初めて」と、言っていただきました。
印象的だったのは、レセプションパーティの会場で、コンバースの方がバイヤーさんに自慢していたこと。ご担当者の方が、欲しいと言ってくださることもまた嬉しかったです。

展示も当初は、原宿にある旗艦店『ホワイトアトリエ バイ コンバース』のみ予定していたのですが、そのあと、新宿店、代官山店、二子玉川店と移っていった点をみても好評と言えると感じています。

—今後の予定を聞かせてください。

木下:現在、秋冬コレクションのプロモーションを準備中です。ただ、春夏とはコンセプトが異なるため、違う切り口を考えているところです。次回も、ぜひ期待していてください!

写真左:株式会社博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング1部 インタラクティブプラナー木下剛さん
写真右:株式会社博報堂アイ・スタジオ Future Create Lab R&Dチーム テクノロジスト/インタラクティブエンジニア 茶谷亮裕さん