Case: NTTドコモ『スマホ専用トイレットペーパー』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、NTTドコモが、現在成田空港で展開しているインバウンド向けプロモーション施策『スマホ専用トイレットペーパー』を取り上げます。訪日外国人の数が初めて2,000万人を突破した2016年。今後もインバウンド需要の増加が予測される一方、訪日外国人が日本の旅行で最も困ることとして、「Wi-Fiサービスなどのネット環境」が挙げられています。

この課題を解消すべくNTTドコモドコモが舞台として選んだのが、海外から高い評価を誇る日本のトイレ。成田空港の各ターミナル到着ゲート付近7か所のトイレに、Wi-Fiサービス・音声翻訳機能付きトラベルガイドアプリの情報等が印字され、スマホの画面を拭きやすいサイズにした”スマホ用”トイレットペーパーを取り付け、訪日外国人に向け、日本での快適な旅の一助となるサービスの利用を喚起しています。

さて、「Wi-Fi」と「トイレ」という意外な組み合わせが、ドコモのねらいとどのように結びついたのでしょう。企画のいきさつや動画制作の意図、PR面での工夫点などを、株式会社NTTドコモ プロモーション部 第二制作担当 主査 深田大介さん、同 第二制作担当 香村佳宏さん、株式会社東急エージェンシー クリエイティブ局 クリエイティブディレクター 諸橋秀明さん、同 第1営業本部 第5営業局 第1営業部 熊澤真一さんに伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美

インバウンド需要の高まりに呼応する、新たな取り組み

―NTTドコモさんによる訪日外国人に対する取り組みは、これまでどのようなものだったのでしょうか。
 
香村: SNS広告や記事広告等のメディア掲載、旅行系イベントへの出展、訪日アプリ事業者とタイアップしたクーポン配布等、Web系のプロモーションを中心に実施してきましたが、インバウンド向けの施策をさらに強化したいと考え、ターゲットへ効果的にコンタクトできるポイントを模索しているところです。

―そのようななか、今回の取り組みを始められたのはなぜでしょうか。

深田:ドコモには現在、堤真一さんらを起用して展開している『特ダネ』シリーズ、黄色い鳥のキャラクター、ポインコが出演する『dポイント/dカード』を軸としたプロモーションフレームがありますが、これらとは一線を画す施策として、若年層をはじめ、これまでドコモに触れてこなかった方に向けたプロモーション活動にもプロジェクトとして取り組んでいます。

インローミングに対するプロモーションは、そのプロジェクト内でもの課題として挙がっていました。2020年の東京オリンピックに向け、インバウンド需要はますます高まりつつあり、今後注力していくべき領域であると捉えたことが発端になっています。

―提案をお受けになった当初の印象を聞かせてください。

深田:実施場所がトイレというのが盲点というか、目から鱗で。伺った瞬間、ぜひやりたいと思いました。ドコモに限らず、いわゆる日本のクライアント側は、トイレを使ったプロモーションはまず発想できないですし、できたとしても実行に移すのはなかなか難しい。なぜなら、第一にトイレに対する一般的なイメージがあるからです。

とはいえ、前述のプロジェクトは、そういう固定観念を一つずつ打破し、新しいドコモのイメージを世の中に訴求していくことが目的でもあるので、今回の提案は、そこにぴしゃりとハマった印象を受けました。

―起案者である諸橋さんは、どういったところから、その着想を得られたのでしょうか。

諸橋:以前、ドキュメントバラエティ番組で、日本人の女の子が海外に住むおじいさんに日本のシャワートイレをプレゼントして喜ばれるというシーンを観たときに、「日本のトイレは外国人に興味を持ってもらうネタとして使えるなあ」と思ったんです。日本のトイレが外国人にとって驚きの存在であることも認識していました。

そのうえで、今回のテーマは、早いタイミングで訪日外国人の方と接触することが肝になると考えるなか、日本に到着したら真っ先に向かうであろうトイレは、その条件に適っているし、世界が注目する日本のトイレの新たな一面をつくることは世の中の話題にもなりそうだな、と。もちろん、ドコモさんがお持ちの課題も解決できると思いました。

チャレンジングなおもしろ動画で、ドコモブランドを揺さぶりたい

―動画も話題になっています。

諸橋: 当初、「スマホ専用トイレットペーパーの使い方」という動画を作ろうという話を深田さんからいただいたんです。でも、もっと拡大解釈をして「日本のトイレの使い方」にすれば、より多くの人の関心を引けると思い、企画を提案しました。そのときは、日本のトイレの使い方を淡々と説明するだけで、十分関心を示してもらえるとお話ししたのですが、今度は深田さんから「めちゃくちゃおもしろくしよう」とさらなるご提案をいただき、そこから“前から拭くエレファントスタイル、後ろから拭くホーステールスタイル”などが生まれました。こんなふうにドコモさんと良い企画ラリーができた成果として、ユーザーからおもしろがって観ていただける内容になりました。ただ、本当と冗談の境界をどこで引くのかには慎重になりましたね。リアルになりすぎると本気で捉えられかねないので、そこのさじ加減は監督ともずいぶん議論を重ねました。

もともと本施策は、プロダクトだけで口コミ拡散していくイメージを持っていたので動画を作る予定も当初は無かったのですが、結果として作ってよかったです。メディア露出の仕方が多面的になるなど、いろいろと勉強になりました。時間の無いなか、協力してくださった磯拓馬プロデューサーはじめ、AOI pro.チームには、本当に感謝しています。

―ドコモさんが、おもしろさにこだわった理由をお聞かせくださいますか。

深田:おもしろいに限らず、「悲しい」「考えさせられる」などもそうですが、世の中に膨大な情報が溢れるなか、ユーザーに見つけてもらい、さらにアクションしてもらうには、よっぽどのきっかけがないと難しい潮流になっています。逆に琴線に触れることができれば、その人自身がメディアとなって拡散してくれる。

それによってプロモーションが成立することを過去の事例から認識しており、また年々そうした時代になってきているとも実感していましたので、そこを狙わない手はないと考えました。
特に今回は、多少のリスクを承知のうえ、よりおもしろさを追求した動画にすることで、ドコモブランドを少しでも揺さぶりたいと思っていたので、これだけ多くの方に視聴いただけたのは、本当に良かったです。

さらには、プロダクトのみだと、体験された訪日外国人がSNSで拡散して、海外で火が付いて、日本のメディアでも紹介されるという流れを待つ必要がありましたが、動画もあることで日本国内でも火が付き、両方からの効果が得られると思いました。この視点からも動画はポイントになりました。

―続いて、プロダクトのこだわりを教えてください。

諸橋:デザインについては、アートディレクターの林俊美と入念に打ち合わせしました。スマホ用トイレットペーパーホルダーは、空港のトイレットペーパーホルダーと並べたときに、そのミニチュア版に見えるよう、愛らしい佇まいを目指したいと思いました。そのため成田空港までロケハンに出かけて実物を確認し、近しい形になるようにつくっています。全体のデザインも、なるべくシンプルにしつつ、どの国の方にも認識してもらえるようにしています。

熊澤:こだわりでもあり、一番大変な部分でもあったのですが、スマホ用トイレットペーパーには、かなりの労を割きました。画面に付いている皮脂を取りつつ、トイレに流すからには水に溶ける紙でなければならない。この条件の揃った紙がなかなか見つからなくって。さらには、ミニサイズのロール紙をつくれるのか、小ロット印刷に対応してもらえるのかなど、そのほかの条件も重なり、協力会社をすべてあたってようやく見つかりました。

―ところで、成田空港の反応は、いかがでしたか。

熊澤:最初、電話越しに話したときには、「え?」っていう反応でした(笑)が、成田空港としても外国人の方に、どのようなおもてなしができるかを模索されていたようで、「ご利用者に喜んでもらえるのであれば、場所を提供しましょう」とご快諾いただきました。

―実際のご利用者やSNSの反応で、印象に残ったものはありましたか。

香村:外国人利用者からは「とてもクールね!」「スマホのクリーナーペーパーとは、とてもいいアイデアだ」という声をいただきました。またSNSでは、日本人の方からも「成田空港に行くから見てみよう」「日本のハイテクなトイレ伝説がまた一つ生まれた」などのコメントを見かけました。「発想がおもしろい」「斬新だ」というコメントが総じて多かったように思います。

深田:このほか、「ドコモが、こんなことできるんだ」というコメントも見かけ、当初意識していたような良い意味での驚きも感じていただけたように思っています。

ファクトと旬のキーワードを盛り込んだPR文脈で、多数の記事掲載を獲得

―ローンチにあたり、どのようなPR戦略を掲げられたのでしょうか。

諸橋:当社PRプランナーの吉尾達矢と協議して大きく2点を意識しました。一つは、ファクトをしっかり盛り込むこと。今回、「スマホは便座の5倍も汚れている」という事実は絶対に入れたいと思い、この調査をされた『SPA!』さんの承諾を得て、プレスリリースと動画に使用しました。もう一つは、メディアで流通するキーワードを盛り込んだことでしょうか。「ドコモ流おもてなし」というのが、そうですね。

深田:海外から来た人が困ることランキングもよかったですよね。1位がWi-Fi環境、2位が言葉、というものですが、リリースにも一部盛り込まれています。

諸橋:今回は、さまざまなファクトを吉尾が見つけてきてくれました。このようにファクトを挙げると、メディアは記事にしやすい。今回も、スマホが汚いということが見出しになったり、おもてなしという言葉を記事内にちりばめることができたりと、多面的な露出が実現できました。

掲載数は、ローンチ1か月で454にのぼっています。現在、『CNN』『BBC』など海外メディアにも取り上げられはじめていますので、今後も数が増えていくと思っています。

―実業との連動に関しては、いかがでしょうか。

香村:今回は、ドコモという日本でナンバーワンのキャリアが存在することを、訪日観光客に印象付けることを重要視していますので、成果へのこだわりは次回以降になってくると思っています。

諸橋:そうですね。スマホ用トイレットペーパーにも、「JAPAN’S NO.1 MOBILE OPERATOR」の文言を載せていますが、極端な話、印字はすべてこれでも良かったくらい一番に訴求したい部分でした。
ナンバーワンは、信頼や安心につながりますので、「日本のキャリアといえば、ドコモね」と思ってもらうきっかけづくりを大切にしています。

―最後に、今後の予定を教えてください。

深田:一旦3か月間の取り組みということで3月15日まで行いますが、その後の展開は、今回の反響と効果を検証したうえで考えたいと思っています。

写真左から順に
株式会社NTTドコモ プロモーション部 第二制作担当 香村佳宏さん
株式会社NTTドコモ プロモーション部 第二制作担当 主査 深田大介さん
株式会社東急エージェンシー クリエイティブ局 クリエイティブディレクター/CMプランナー/コピーライター 諸橋秀明さん
株式会社東急エージェンシー 第1営業本部 第5営業局 第1営業部 熊澤真一さん