Case: 九州地域戦略会議『九州・山口 ワーク・ライフ・バランス推進キャンペーン』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、九州・山口地域9県と経済界による「九州・山口 ワーク・ライフ・バランス推進キャンペーン」を取り上げます。

このキャンペーンでは佐賀県、宮崎県、山口県の3県の知事が重さ7.3kg(妊娠7ヶ月相当)妊婦ジャケットを着用し、仕事や家事、買い物などを行う事で妊婦の大変さを体感。その模様がYouTubeにアップされました。この動画は、日本のみならず世界188ヶ国へと広がり、全世界での再生数は2,300万回以上になりました。企画立案の経緯から、公開後の反響までを株式会社 CS西広 クリエイティブセンター 第1CRチーム チーフクリエイティブディレクター 深堀康平さん、同社 コミュニケーションデザインセンター コピーライター・CMプランナー 岡本和久さんにお話を伺いました。

Interview : 市來 孝人/ Text : まきだ まどか

知事を企画の中心にすることで、メッセージの本気度を伝える

―ワーク・ライフ・バランスをテーマにキャンペーンを行うに至った経緯について教えてください。

岡本:今回の「九州・山口 ワーク・ライフ・バランス推進キャンペーン」は、九州地方知事会と九州・山口経済連合会が主体となり、九州独自の発展戦略を立てたり、具体的施策に取り組む「九州地域戦略会議」から生まれた企画です。様々なテーマのプロジェクトがこの会議から生まれるのですが、出産をテーマにしたプロジェクトチームでは佐賀県の知事がリーダーとなり、今回の企画がかたちになりました。9社の競合プレゼンが行われ、私たちの企画が採用されました。

―競合プレゼンの中でも、今回の企画が選ばれたのは、どういった理由があったのでしょうか。

岡村:最近は地方自治体によるPR動画がたくさん作られるようになり、面白系や感動系など様々なものが公開されています。その中でも、私たちの企画は、知事を全面に出しながら、見た目のインパクトもあったということで、選んでくださったと聞いています。

深堀:知事が集まり、地域を変えようとしていることを伝えるキャンペーンですので、県民をはじめ、見ている人にその本気度が伝わらなければなりません。そのためには、地方自治体のトップである知事を企画の中心に据えることで、よりメッセージが世の中に響くのではないかと考えました。知事自ら動くことで、根本的な解決につながるのではと思ったんです。

バズよりも、女性からの共感を集めるために

―参加された知事3人の反応はいかがでしたか。

深堀:佐賀県の知事の撮影は、8月のお盆前だったので、かなり暑い時期でした。妊婦ジャケットを着ているだけでも体力が奪われる中で、いろいろな環境で妊婦体験をしてもらいました。予想していた以上に大変だったそうです。それまで(制度を通して)子育て支援はしていたけれど、妊娠中の実際の感覚までは意識がいっていなかったという気付きもあったようです。

―企画が採用され、制作するにあたり、苦労した点はありましたか。

深堀:一番悩んだのは、バズを起こすようなおもしろさと本質的なメッセージとのバランスです。プレゼンの段階では、妊婦ジャケットを着用した知事がいろいろな失敗をして少し笑えるようなシーンを入れ込むことを想定していました。しかし、演出コンテを考える段階で考え抜いた末に、バズ的なおもしろさを追うあまりに、女性の共感を得られないものになってはいけないという結論に至り、見せ方を変えました。

岡本:動画の中で、靴下を履くシーンがあります。立ってふらふらしながら靴下を履いた方が画としてはおもしろいのかもしれないですが、現実的には、お腹の大きな女性はそういう履き方はしません。これでは女性からの共感は得られないですよね。
その他、細かな点についても編集段階で女性に見てもらい、意見を集め、女性視点で見たときに少しでも嫌な気持ちにならないかを調査しました。女性により共感してもらえるものを目指し、最終的にはちょうどいいところに着地したと思っています。

日本だけにとどまらず、海外でも大反響!議論を巻き起こす

―動画公開後、かなりの反響があったかと思いますが、メディアからの反応はどういったものでしたか。

岡本:予想以上の反応がありました。ヤフートピックスをはじめ、現在までに100媒体以上のネットメディアに掲載されました。テレビでも、ニュース番組や池上彰さんの番組などで取り上げてもらい、実際に妊婦ジャケットを番組内で着用してくれたこともありました。
SNSなどで議論を巻き起こしたのも、今回のキャンペーンの特徴でした。女性からは、つわりや精神的なつらさも加わり、妊娠中の大変さはこんなものじゃないという意見、男性からは、会社の環境を整えないと早く帰りたくても帰れないという意見などがあがっていました。ただ、涙が出てきたとか、国で義務化すればいい、この動画で救われたというようなポジティブな意見も多くありました。

―日本だけではなく、海外での反響も大きかったようですね。海外展開へ向けて、何か戦略があったのですか。

岡本:正直、私たちが戦略的に特に何かしたわけではありません。結果的には、この動画は世界188ヶ国で見られることになりました。映画『スティーブ・ジョブス』主演のアシュトン・カッチャー氏がFacebookでシェアしてくれるなど、想像以上にSNSでも話題になりました。ありがたいです。

深堀:インドや中国などのアジア圏が特に再生回数が多く、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアでも再生回数が伸びていました。スピードの差はありましたが、比較的まんべんなく世界中の人が見てくれたようです。

―日本の何かの媒体で紹介されていたものが、海外へと波及していったのでしょうか。

岡本:そうですね。元々海外向けに制作した動画ではないのですが、YouTubeの動画にそれぞれの言語の訳が加えられてアップされて広がっていきました。中国版のTwitterといわれているウェイボーでも取り上げられ、話題になっていたようです。
女性の妊娠出産にともなう大変さ、男性が女性の気持ちを理解する必要があることは、世界共通だということが改めてわかった気がします。「素晴らしい社会実験だ」というコメントをいただいたこともありました。

―どれくらい再生回数が伸びたのですか。

岡本:世界中のサイトなどで視聴され、動画公開後1ヶ月で2300万回再生されました。

動画を公開してからが環境改善・意識改革へのはじまりだと思う

―社会的にも影響が大きい動画になったのではないでしょうか。

深堀:佐賀県の担当の方が内閣府に出向いて、この動画を作った経緯について聞かれたりということもあったそうで、成功例としてとらえてくれているようです。

―改めて、この企画を制作するにあたり、最終的なイメージはどういったものだったのでしょうか。そのゴールイメージに近いものとなりましたか。

深堀:ここまで広がるとは思っていなかったので、それは喜ばしいことですが、私たちは動画を作って終わりにはしたくない、実際に妊婦体験出来るところまで実現したいという思いがありました。動画が完成した後も、県の担当の方々と何かできることがないかと話し合いは続きました。

岡本:子育て関連のイベントでブース出展した際に妊婦体験出来るようにしてくれたり、佐賀県知事は、撮影後すぐに妊婦ジャケットを3着購入して県庁に置いてくれたりと、各自治体での独自の動きはあるようです。

―今後の構想があれば、教えて頂けますか。

岡本:今後のことはまだこれからですが、個人的には、企業にもこのプロジェクトに加わってもらって、ワーク・ライフ・バランスを推進していかなければいけないと思っています。企業からも変わっていく必要があると考えています。

株式会社 CS西広 クリエイティブセンター 第1CRチーム チーフクリエイティブディレクター 深堀康平さん(右)
同社 コミュニケーションデザインセンター コピーライター・CMプランナー 岡本和久さん(左)