Case: Sansan CM

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、クラウド名刺管理サービス「Sansan」を取り上げます。6月末より、松重豊さん、野間口徹さん、満島真之介さん出演のTVCMをOA。これは2013年のOA開始以来続いているシリーズ(今回が4作目)。Sansanでは、自社のカンファレンスや名刺・パスケースなど社員が使用するツールなどまで「Sansan」として表に出る物事については全て「ブランドコミュニケーション部」が手がけているそう。クラウドのサービス、かつスタートアップでありながらクリエイティブに力を入れる理由を、Sansan株式会社 ブランドコミュニケーション部 部長 クリエイティブディレクター 田邉泰さんに伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人

TUGBOATと組んでCMを制作した経緯・理由

—まず、CMを作ることを決めた当時を振り返って頂けますか?

弊社が創業当時から目指しているのは、世の中を変えるような新しい価値を生み出すということです。Sansanが新しい「当たり前」になるには、もっと早いスピードで圧倒的に認知を広げなければならない、その非連続な成長の手段の一つとしてマス広告を検討したことがきっかけでした。

扱っているのはクラウド名刺管理サービスという新しいものですが、「名刺管理」は昔からある課題です。この誰もが理解できるキーワードをフックにすれば、テレビCMの短い時間でも大衆に価値が伝えられるのではないか、という仮説を立てました。さらに、チープな見え方にならず、きちんとサービスの価値が伝わるCMを作ることも重視し、「クリエイティブファースト」でクリエイターを探すことからスタートしました。

最初は、いろんな会社にご相談をしたのですが「CMはやめたほうがいいのではないか」と別の手法を薦められることも多かったです。確かに様々な手法があるのは事実なのですが、企画をご提案いただいてもしっくりこなかったりして、なかなか話が具体的に進まなかったのです。そんな中で現在もご一緒しているTUGBOATの岡(康道)さんにお会いする機会がありました。

—最初に寺田(親弘)社長が岡さんにお会いした際は、どんなお話をされたのでしょうか?

一回目にお会いした時は、「本当に効果を上げるクオリティの高いCMをつくろうとすれば一定の制作費が必要で、その数倍の媒体費用を投じて流さなければ効果は期待できない。その為にはこれくらいの額が必要です」と率直に教えて頂きました。このときは金額の折り合いがつかなかったのですが、CM自体をやめろとは言われず、「面白いですね。もっと広告費が貯まったら、ぜひ一緒にやりましょう」という話になりました。

—その後資金調達を経て、寺田社長自ら改めてTUGBOATさんに行ったそうですね。

はい、そこから実際にCM制作をお願いすることになり、プランナーは麻生(哲朗)さんに担当頂きました。
ブリーフィングの際のやりとりで、すぐにサービスの本質を捉えてくださった手応えがありました。完成したCMは名刺管理をフックとしながらも「名刺の管理に困った。そんな時はSansanがあるよ!」という単純なものではなく、「名刺を社内で共有して活用する」ことがもたらす本質的な価値を、世界観も含めて表現してくださったと思います。

—やはりCMのOA時、反響は大きく変わりますか?

投下時には問い合わせ数も増えますし、初めてオンエアしたシーズンは受注件数も2倍になりました。Sansanは名刺という企業の顧客情報をデータベース化するサービスなので、決裁者が社長・役員クラスになることが多いのです。CM投下によって、その層の方に「CMで見た会社だ」という認知と信頼感が受注率の増加につながるという狙いもあり、それも成果に寄与していると思います。

いいものを作るといい反応がある—クリエイティブ専任の部署を発足

—その後、御社の中でクリエイティブ専任のチームを作った理由は何でしょうか?

CM制作を通じて、戦略的にクリエイティブに投資する意義を実感しました。いいものを作るといい反応がある、つまり良質なクリエイティブが会社のブランド価値向上につながるということですね。CMは引き続きTUGBOATさんにお願いしながら、自社でも、展示会、広告、パンフレット、オフィス、社員のストラップや名刺…「Sansan」として見えるもの一つ一つの質を意識するようになりました。こうしたタッチポイントは多岐に渡りどんどん広がっていくので、ちゃんと専門のチームを作って、企業の戦略として取り組んでいこう、というのが経緯です。

—外からの見え方としてこだわっている面はありますか?

提供するサービスは名刺管理ですが、それを通して一歩先の未来を作ろうとしていること、イノベーションにチャレンジし続けているということは、しっかりと伝えていきたいです。手当たり次第いろんなことをやるというより、ひとつのことに真摯に向き合っているという姿勢が伝わればいいなと思っています。
その結果、余計なもので着飾るというよりは、伝えたいことをシンプルに削ぎ落として伝えるということが多いですね。

—CMとは異なり、期間が決まっていないものについては、なかなか直接的な成果、数値が見えづらい部分かと思うのですが、社内ではどのように成果については検証しているのでしょうか?

そうですね、実際の数値や短期的な成果としては本当に見えづらいところなので、弊社が掲げているミッションやビジョンをブレずに表現できているか、という点や、直感的に「これはいい!」と納得できているかを振り返るようにしています。

作っている自分達でさえ納得できていないものは、他の人から見たらもっと納得がいかないものです。だから、見る人と同じ目線に立った上で、自分達が「これはいい!」と思えるかどうかを大事にしています。そういったものの積み重ねでSansanへの共感が生まれるのだと信じています。そしてミッションやビジョンという大事な部分からブレずに表現するからこそ、長期的な目線で見ることができ、それがいずれ、なにかしらの成果に繋がっていくのだと考えています。

—最近の施策で大きかったものはありますか?

今年2月に初めてのプライベートカンファレンスを虎ノ門ヒルズで開催し、1,500人ほどの方に来場頂いたのですが、想像以上の反響があり、Sansanのことを好きになってくださる人が増えた手応えがありました。
こういったマーケティングイベントはマーケティングや営業の担当がメインで進めるのですが、自社のメッセージを発信するブランディングの一環として、私も企画段階から一緒にチームに入っています。

—「名刺交換」をテーマにした、Eightの動画も先日公開されていましたね。

Eightは紙の名刺を管理するアプリから、名刺を通じたビジネスソーシャルネットワークに進化していて、今年3月にはオンライン名刺交換機能を実装しました。そのイメージ転換とEightが目指す世界観をクリエイティブの力で広く伝えようと、このような動画を初めて作りました。

—今年これからやっていきたい企画はありますか?

昨年の年末に、築地本願寺で「Sansan名刺納め」という企画をやりました。名刺を通じて一年の出会いに感謝する法要で、サービスのユーザ以外の一般の方にも参加して頂き、TV等のメディアで紹介されました。これはブランドコミュニケーション部の発信で、名刺に関する新しい習慣を作ろうという狙いです。引き続きクリエイティブに力を入れながら、こういった新たなコミュニケーションの機会を自社発信で作っていきたいですね。

Sansan株式会社 ブランドコミュニケーション部
部長 クリエイティブディレクター 田邉泰さん