Case:キリンビバレッジ株式会社『Japanese Greeting ~日本の挨拶~』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、キリンビバレッジ株式会社による生茶のプロモーションコンテンツ『Japanese Greeting ~日本の挨拶~(※公開は2016年6月30日まで)』を取り上げます。

2000年の発売以来、消費者に愛され続けている『キリン 生茶』の大々的なリニューアルを記念して、3月21日から公開されているショートムービーは、日本の風習である「あいさつ」がテーマ。「すごい話したがりのご近所さんが回覧板を持ってきた時の挨拶」「職場の休憩室で、そんなに仲良くない上司と2人きりになってしまった時の挨拶」など、全8パターンをコミカルかつスタイリッシュに展開しています。本ムービーが生まれた経緯やこだわりを、キリン株式会社 CSV本部 デジタルマーケティング部 中村美幸さん、面白法人カヤック 企画部・人事部 平野俊介さんに伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美

テレビを観ない属性のユーザーにも、新しい生茶を訴求したい

―まずは、企画が立ち上がった経緯を聞かせてください。

中村:『生茶』は、今年で発売16周年を迎えます。これまでもパッケージや中身の見直しを都度図ってきましたが、ここまで大きなリニューアルは今回が初めてです。3月22日の発売に合わせ、TVCMも展開していますが、近年はテレビを視聴せず、ウェブ上から情報を取得する層も一定数存在することから、その方たちからのアテンションを取るため、ウェブで楽しんでいただけるコンテンツをつくりたいと考えました。

平野:企画の段階で、ジェネレーターやプロジェクションマッピングなどいくつか提案し、その中からこの動画企画を採用していただきました。とはいえ、動画はおもしろそうと感じてもらえなければ、見てもらうことすらできず、情報自体をシャットアウトされてしまうので、大きな賭けでもあります。
お茶は商品訴求によるコミュニケーションが難しい商材のため、イメージ訴求を軸にアイディアを膨らませていきました。

―この考えのもと、『日本の挨拶』をテーマにしたショートムービーが生まれたのですね。

平野:最初に『新 生茶』のボトルデザインを見たとき、ずいぶんスタイリッシュに変わったという印象を受けました。それと同時に、和の雰囲気や上品さを感じたので、そのイメージをコンテンツ内でしっかり表現するため、日本独自の文化『あいさつ』をテーマにしようと思いました。
日本のあいさつは、相手やシチュエーションに応じて、空気を読んだり、間合いを取ったり、表情を作ったりと実に複雑です。そんな日本のあいさつの複雑さや難しさを焦点にしつつ、生茶の「和」「スタイリッシュ」「上品」といったイメージが浸透するように構成していきました。

―企画をご覧になったときの印象をお聞かせください。

中村:率直に「おもしろそうだな」と思いました。日本のあいさつという風習をコミカルに解説するという主旨は、数年前に話題になった、ラーメンズの動画『日本の形』に近く、イメージもしやすかったです。笑いの質もスマートで、ブランドイメージにも合っていると感じました。

―動画は8パターンありますが、どのように生まれたのでしょうか。

平野: 最初に100案くらいあいさつの種類を考えました。第1弾の5本は、ターゲットを全方位的に考えていたので、『生茶』のブランドイメージや面白さの観点で、直感的に選んでいきました。しかし第一弾の動画は、おもしろかったという反応が多いにも関わらず、シェアの動機をつくれていないという反省点が生まれました。そこで、第2弾の制作にあたっては、どういう人にシェアしてほしいのか、どう拡散していくのかを突き詰め、中村さんと何度も話をしながらチューニングし、新たに3本のムービーを制作しました。

中村:第1弾とくらべて、動画を見てもらいたい人がより明確になりましたよね。

平野:ええ。たとえば、「配属されたばかりの新人の、怖そうな先輩エンジニアへの挨拶」は、エンジニアのみをターゲットにしています。エンジニアはSNSの接触回数が多く、接触時間も長い傾向にあり、反応も良いので、少数ターゲットながら反響が大きいのでは、と考えました。ほかの動画2本もターゲットを明確にしています。

―第1弾と第2弾で方針が異なる部分は、ほかにもありますか。

平野:はい、拡散施策を変えています。第1弾のときは、公式サイトに誘導し、YouTube上で再生してもらうことを目的にSNS広告の出稿とPRリリースを実施しましたが、結果として公式サイトへの流入はさほど多くはありませんでした。キリンさんの公式SNSから投稿したものを検証しても、ユーザーはその場で再生するケースが多いことが分かりましたので、第2弾では、SNSのなかで再生されることを念頭にした施策に方針を転換し、OGPも動画再生の設定を行うなどしています。

視聴したくなるポイントづくりに苦心

―こだわった点、難しかった点はありますか。

平野:ユーザーが動画を視聴したいと思うかどうかは、一瞬で判断されます。今回のクリエイティブは、じわじわ系のため、視聴してもらうための動機づけには、いろいろと頭をひねりましたね。その策として、各動画のタイトルをなるべくマニアックにして、文字数も画面いっぱいになるように長くしています。難易度を付けたのも興味喚起につなげられればと思ってのことです。
あとは、トーン&マナーでしょうか。動画をモノクロと深緑だけにして色数を絞っているのは、全体的にスタイリッシュに仕上げたいという意図からです。色が多いとノイズも多くなるので、内容に集中しにくくなるので、この辺りにも気を配りました。

―ウォータースライダーの描写やひざの角度の表示など、ディティールのこだわりも感じます。

平野:ええ。1、2分の動画を見てもらうのは、かなりハードルが高いと考えています。特に今回のムービーは、終盤に『生茶』が登場するので、どうしても一番最後まで視聴してもらう必要がありました。あいさつというシンプルな行為をなるべくマニアックに捉えることで、最後まで見たくなるように細部までこだわっています。

―ユーザーの反応のなかで、印象に残ったものはありますか。

平野:「生徒に見せたい」という学校の先生からの書き込みや、「大学で日本文化を研究している外国人の先生に見せたら爆笑していた」というものは印象的でしたね。とにかく笑いながら視聴していただいていると感じています。

―ショートムービーは、期間限定公開なんですよね。

中村:はい。新しい生茶からのごあいさつという趣もあり、当初から恒常的な施策にする予定は持っていませんでした。ただ、コンテンツマーケティングを大々的に行うのは、『生茶』としてはほぼ初めてのため収穫は大きいと感じています。今回、第1弾をブラッシュアップして第2弾につなげたように、今回の検証を基に、今後さらに良いものをお届けできるよう、より励んでいきたいと思っています。

キリン株式会社 CSV本部 デジタルマーケティング部 中村美幸さん(写真右)
面白法人カヤック 企画部・人事部 平野俊介さん(写真左)