Case:FMだいご『大子町殺人事件』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、コミュニティ放送局「FMだいご」が今年1月11日(月)より放送開始し(番組サイトでも聴取可能)、3月28日(月)に最終回を迎える、茨城県内でも最も高齢化が進む久慈郡大子町の活性化を目指した住民参加型の連続ミステリードラマ『大子町殺人事件』を取り上げます。

大子町を舞台に地元の名所・旧跡が登場し、2人の刑事役以外の出演者はすべて町民。ラジオドラマ制作を通した地域活性化を目指すこの取り組み。株式会社 電通 第2CRプランニング局 コミュニケーション・プランニング・センター コミュニケーションプランナー 加我俊介さんに制作の舞台裏を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人

5歳から78歳まで、総勢20数名の町民が参加

—まずは企画に携わることになったきっかけからお聞かせ下さい。

FMだいごは茨城県久慈郡大子町のコミュニティFMで、東日本大震災後の防災インフラとして立ち上げられました。三万世帯程度で聴取可能で、各世帯にラジオを配っています。それは何か災害があった時に大子町はお年寄りが多く、スマホでの通知では連絡が行き届かないからです。ラジオに自動的に電源が入って防災情報が流れるという仕組みになっています。

民話の読み聞かせや地元高校の吹奏楽担任が行うブラスバンド番組など、限りある予算の中で様々な自主制作番組を放送しているのですがなかなか聴いてもらえない、するとそのうち電池も外してしまう恐れがあるんですね。そのため、FMだいごを聴いてもらう”きっかけ”となるような番組を作れないかと、たまたまご近所さんだった現在の番組プロデューサー・浅野修治郎さんに声をかけてもらったのが始まりです。

—地元の方が出演されているとのことですが、どのように声をかけていったのですか?

一旦シナリオを起こして、その上で町を回って、「消防署を登場させたけど、ここにはないね」などと実際の町の状況に合わせてチューニングした上でプロデューサーの浅野さんに渡し、職業や年齢感に近い人をキャスティングしてもらいました。例えば、看護師さんが看護師さんを演じるのは普段の自分でいられますから。5歳から78歳まで、総勢20数名の町民の方に参加頂いています。

また町のみなさんには自分の台詞だけ台本を渡していて、それ以外は伝えていません。なんとなく全員の台詞を集めていくと真相がわかるようになっているので、町中で「どこまで聞いてる?」などと井戸端会議で話題になってもらいたいな、という狙いがありました。

—なぜ「殺人事件」のストーリーなのでしょうか?

ミステリーにしたのは、謎を解く聞き込み対象にすれば、誰でも登場人物に出来るんです。「殺人事件」と聞くとネガティブに思われるかもしれないのですが、実は結末は誰も悪い人はいない。その事件が”起こった”理由がちゃんとある…というハッピーエンドになっています。

町の象徴的な音でドラマを構成

—音楽監督に、invisible designs lab 清川進也さんが起用された経緯はどのようなものでしょうか?

今回、「あの場所だね」と分かるような町の象徴的な音でドラマを構成したかったんです。例えば汽車が走っているので、汽笛が鳴ると「あ、あの駅のあたりね」とイメージしてもらえるように。

このような環境音と言えば、やはり清川さんしかいらっしゃらないとお声がけさせて頂いて、BGMのみならずドラマ自体の監督もお願いしています。スタジオでの収録にも参加されて「声」の部分も全て見て頂いています。

ちなみにSEだけではなくBGMも全て町で録っています。町の音楽好きな方を集めたところリコーダーからギターまで7人集まりました。公民館に集まって実際に楽器を弾いてもらい、清川さんがその力量を見ながら「XXさんとXXさんを組み合わせて」とその場でのセッションみたいに組み合わせて、BGMを作っていきました。音楽好きだけど発表する場がないとか、公民館などの施設を整えたけどなかなか使用されていない、そういった点の解決策の一面もあります。

—現地での反響はいかがですか?

町が小さいのでスタジオに差し入れを持ってきてくれたり、見学に来たり、OA開始前から話題になっていました。自発的に配ってもらえるようにポスターも100枚程度用意して持って帰ってもらえるようにしました。

OA開始後は「カレンダーに放送日を赤字で記入し、忘れないように欠かさず聴いている。ただ忘れてしまう事もあるので、子どものスマートフォンで聴き直しさせてもらうことをおぼえた」(70代 男性)「大子町の情景を思い浮かべながら聴けるので楽しい」(40代 女性)「放送時間には聴くことができないので、サイトでUPされるのを待って通学時に聴くようにしています。とても面白いです」(高校生 女性)など、幅広い方から反響を頂いています。

—ラジオという媒体の特性については、いかがでしょうか?

媒体特性の視点で言うと、ほぼ全域の町民が車を使っていて、このような車社会ではラジオは有効だなと思いました。またコンテンツの視点では、映像は回答を与えている、ラジオは聴きながら想像するので余白がある、そういった違いがあるなと感じていました。そのため、町民の皆さんがイメージを膨らませながら楽しめるように、町に存在する”音”、身近にある”音”にこだわって制作しました。

まずは町の人自身が楽しんでもらえたかどうか

—Web上でもアーカイブが聴取出来るようになっていますね。

こちらは、副次的な広がりの部分、つまり町外の人を対象にしています。ドラマで登場するのがすべて町中の名所なので.観光協会とも協力し名所を紹介した観光協会のページにリンクし、「大子町の観光ポータル」としても位置づけています。

—今回の企画を振り返ってみていかがですか?

まず、町の魅力が外に発信されればもちろん良いのですが、それは副次的なもの。まずは町の人自身が楽しんでもらえたかどうか、という点を意識しています。

ラジオだけに関わらず地方からの情報発信は増えていますが、この企画は小さい町のフォーマットにはなりえるなと感じました。大子町のようにシャッター商店街となってしまっている小規模な町であればまずは町の中を盛り上げなければいけません。そこに注力することで、結果的に外へも話題が広がっていくと思います。

また、本企画は、町民の方に声優として出演頂いたりBGMを演奏して頂いたり、町のあらゆる音を採取させて頂いたりと大子町総出で作り上げていますが、この制作プロセス自体が一つのお祭りになっていました。町おこしと考えると、従来のクローズドな制作スタイルを、巻き込み型のオープンな制作スタイルに変えることも一つのソリューションになりえるのかなと思いました。

株式会社 電通 第2CRプランニング局
コミュニケーション・プランニング・センター
コミュニケーションプランナー 加我俊介さん