Case: NHK・DigiBook「プロフェッショナル 私の流儀」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回はNHKの人気番組「プロフェッショナル 仕事の流儀(毎週月曜日 NHK総合22時~放送中)」の公式アプリ「プロフェッショナル 私の流儀」について取り上げます。誰でも簡単に「プロフェッショナル風オリジナルムービー」を作れるこのアプリ。企画・開発の経緯から、アプリに込められた想い、予想を越えた拡散スピード、そして今後の展開まで、NHK企画・開発ディレクターの小国士朗さんと株式会社DigiBookビジネスディレクターの野村絵里奈さんにお話をお伺いしました。

Interview & Text : 坂巻 渚

4年間あたため続けた企画をついに実現

—まず、今回アプリをリリースした背景を教えていただけますか。

小国:このアプリの元となるアイデアを出したのは、実は4年程前なんです。その頃、僕は「プロフェッショナル 仕事の流儀」のディレクターをしていたのですが、この番組の価値をもっと色んな形で知ってもらえないかと感じていました。この番組は1回の放送を作るのに約40日間出演者の仕事の現場に密着しているのですが、それがたった1、2回の放送で終わってしまうのはもったいないと。

そこで考えたのが、「パパ・ママの流儀」でした。プロというのは超一流の人だけではなく、「誰でもプロである」ということに、多くの人が気づけるきっかけを作れたらいいなと思ったんです。 そこでみんなにとっても身近なプロである「親」という存在に注目し、全国のパパやママの流儀をサイト上で閲覧できる企画を提案したのですが、その時は上司に「それもいいけど、次回の番組枠を埋めてね!」と全く相手にしてもらえませんでした(笑)。

その後、僕は番組を制作するかたわら、色々な番組のPRを担う仕事も兼務することになったのですが、今年「プロフェッショナル 仕事の流儀」が10周年ということで、何か面白い企画をしたいと今度はプロデューサーの方からオファーをもらいました。「パパ・ママの流儀」と同様のコンセプトで形だけ少し変えた「私の流儀」を提案した所、ついにGOサインが出ました。4年越しの想いを形にできるのはかなり嬉しかったですね。

今回アプリの企画や開発をしていただいたDigiBookさんとは、以前NHKの福祉番組で展開したALSの認知拡大キャンペーン「Share Music,Think ALS」でご一緒したことがありました。今回のアプリについてもプロデューサーの野村さんにご相談したら、「ぜひやりましょう!」とすぐに決まりました。ALSのキャンペーンの時はサイト上で展開したのですが、投稿数という点でなかなか難しいと感じていたので、今回はどうしてもアプリを作りたいと思っていました。

野村:サイト上での投稿キャンペーンとなると、もともと番組に興味のある方のみの参加となってしまいますが、アプリであれば、アプリストアのランキング次第で潜在層にもリーチできるので。何としてもランキングを上げ、投稿数を増やしたいという想いがありました。

—“私の流儀”という名前も面白いですよね。名前に色々な意味が込められている感じがしました…

小国:「プロフェッショナル 仕事の流儀」では、色々な業界のトップオブトップの方々にご出演いただいているので、特に大学生や新社会人などの若い層からは、番組を見ても “自分とはかけ離れたすごい人の話” で終わってしまうという感想を頂くことがあったんです。そのため、アプリでは「誰でも、プロフェッショナルになれる」ということをもっとわかりやすく伝えられればと思い、この名前に決めました。

アマチュア感を出さない。とことんこだわったアプリ制作

—制作ではどのような点を特にこだわられたのですか?

野村:人気番組の公式アプリなので、一般の方が撮った動画であってもアマチュア感がなく、誰かに見せたくなるコンテンツにまで引き上げるという点には特にこだわりました。あとは、「作る」ハードルを下げるため、必要なステップは4つに絞り、動画を作る手間を最小限にしました。

例えば、動画の最初に映し出される静止画は動画から引っ張ってきており、静止画を用意する必要がないんです。尺も55秒と短くし、その中に番組の大切な要素をギュッと詰め込んで、生成された動画を見ただけで番組を想起させるように工夫しました。

—NHKさんとしてもこだわられた部分が多かったのではないですか?

小国:開発についてはDigiBookさんに安心してお任せしていました。逆に、野村さんの方から「番組公式感を大切にしたい」「挿入するのは静止画ではなく動画にしたい」など、ご提案をいただいたくらいです(笑)。代理店を挟まずに目指す世界観なども全て共有していたので、時間がない中、理想的なアプリをスピーディーに開発していただきとても助かりました。野村さんとは常に腹を割って何でも話していましたね。

—アプリのターゲットはどういう方になりますか?

小国:年齢で言うと59歳以下、メインは10代から30代の若い層です。もともと「プロフェッショナル 仕事の流儀」は、就活中の大学生や現役バリバリの30~40代など、比較的若い層をメインターゲットに始まった番組なのですが、リサーチしてみると実際は、60歳以上の男性を中心としたシニア世代に多く見て頂いていることがわかりました。

そのためアプリでは、番組がリーチし切れていない若い層にまずはアプリを楽しんでもらえたらと。あと欲を言うと、若い人たちにもっとNHKをいじってほしいなと(笑)。「プロフェッショナル 仕事の流儀」はこれまでに他局の番組や結婚式等でも様々なパロディが作られているのですが、こういうのが結構嬉しいんですよね。ユーザーさんにいじられて初めて仲良くなれる気がしています。

予想を越えた拡散スピード。会社のリソースをとことん活用する戦略

—お正月明け頃からアプリがかなりバズり始めた気がしますが、具体的にPRはどのような事をされたのですか?

小国:広告費は一切なかったので、NHKが持っているリソースをとことん活用しました。Facebookページ、Twitterの活用はもちろん、1月4日に放送した「プロフェッショナル 仕事の流儀」10周年記念の番組内でアプリ紹介をしたり、その真裏にニコ生放送で「プロフェッショナル10周年同窓会」と銘打って特別番組を放送して頂き、その中で1時間ほどアプリの紹介をしました。

また、うちの“名物アナウンサー”の有働由美子アナウンサーにも協力してもらい、アプリを使って動画を作ってもらうと同時に、「あさイチ」という番組で同じく1月4日にアプリの紹介をしてもらいました。その影響力は絶大でした。PRを1月4日に集中させた結果、その日1日で7万強のダウンロードを達成することができました。

翌日の1月5日には「App Store 総合無料ランキング」で2位まで上がり、そこからは自然とダウンロード数が伸びていって。当初のKPIは3ヶ月で15万ダウンロードだったのですが、現在までに既に90万ダウンロードされている状況です。さらに、1日に100から200人程の方が番組サイトに動画の投稿もしてくださっていて、本当に嬉しい限りです。

野村:通常ランキング上位にはゲーム系アプリが多い中、エンタメ系アプリで2位になれたのは嬉しいですね。人気検索ワードにも、「プロフェッショナル」や「私の流儀」というワードが入ってきて、本当にバズっているのだと実感しました。嬉しくてスクリーンショットばっかり撮っていました(笑)

<App Store 総合無料ランキング>

<App Store 人気検索ワード>

—特に投稿数の多い動画のテーマや印象に残っている動画はありますか?

小国:ペットと子供の動画が多いですね。番組のテーマ曲「Progress」の音楽にのせると何故か子供でもプロっぽく見えてくるんですよね(笑)あと、 “20年間使い続けているやかんの流儀”はかなりシュールでした(笑)みなさんのパロディ能力の高さにはビックリさせられっぱなしです。

野村:実際にアプリをリリースしてみて、特に若い方々がアプリを楽しんでくれているという印象も受けています。若い人たちはWeb上に顔が出ることをあまり気にしないんですよね。あとは、部活やお店のPR用に動画を作っている方もいました。

—SNS上で特に嬉しかったコメントなどありますか?

小国:一番嬉しかったのは、「お正月に家族全員でアプリを使って大爆笑!」というツイートですね。NHKの番組は“大爆笑”とは程遠いものが多いので(笑)子供からお年寄りまでみんなに楽しんでもらい、家族の会話の糸口にもなったというのは本当に嬉しかったです。

野村:「アプリで遊んでいたら1日が終わっちゃった!」というコメントも嬉しかったですね。今回何よりこのアプリを使って、まずは楽しんでほしいという想いが強かったので。また作った動画をYouTube に投稿している方がかなり多くて驚きました。現時点で確認が取れているものだけでも、投稿数が1万以上、閲覧だと200万回を超えている状況です。

小国:何人かYouTuberの方も動画をアップしてくださっていて、その度に若者のダウンロード数が伸びました。1投稿に対しコメントが2000件、好評価も1万など、YouTuberの影響力の大きさには驚いています。

<実際のYouTuberの投稿>

—男性と女性の割合はどれくらいですか?

野村:YouTube上に公開されている方を見ている限りですが、8:2で男性が多い印象です。

アプリの枠を飛び越え、世の中に価値を提供していきたい

—今後の展開について教えていただけますか。

小国:まずは更にダウンロード数を伸ばすために、社内やNHKとつながりのあるインフルエンサーを積極的に活用していきたいと考えています。現在特設サイトの「あの人の流儀」というコーナーで、番組の出演者など、著名人の流儀を紹介しているのですが、今後も人気のあのキャラクターなど、話題になりそうな流儀を追加していく予定です。

またこれは少し大きな動きになるのですが、今後はアプリをダウンロードしてくれた方を “プロフェッショナル アプリディレクター”と見立てて面白い企画を仕掛けていこうと考えています。アプリさえあれば、自身の流儀を作ることはもちろん、自分以外の人の流儀を作ることもできるので。アプリのダウンロード数が90万であれば、各地に90万人のディレクターがいると勝手にイメージしています。

毎月テーマを決めて、「みんなの〇〇の流儀」という形でイベントを開いたり、実際に “アプリディレクター”に取材に行ってもらう番組も作れたらと面白いなと。実際2月には、バレンタインデーにちなんで「みんなの告白の流儀」の募集を行いました。また東日本大震災に関するみんなの流儀を集めた「“あの日”のプロフェッショナル」も企画中です。面白いものから真剣なものまでバランスをとった企画をしていきたいですね。

—今回のアプリは様々な企画の第一弾というイメージなんですね。

小国:そうですね。もちろん、アプリ自体を楽しんでもらいたい気持ちはありますが、視聴者との大事なコミュ二ケーションツールの一つという考えをブレずに持っていたいと思っています。例えば、就活生を対象に大学の授業でもアプリを使っていただく予定です。このアプリでは1分間という短い時間内に自分を表現する必要があるので、学生が自己分析をする上でもとても有効だと複数の大学から評価を頂いています。今後も、アプリやテレビという形にとらわれず、世の中にさまざまな“価値観”を提供できれば嬉しいです。

NHK企画・開発ディレクター 小国士朗さん(左)
株式会社DigiBookビジネスディレクター 野村絵里奈さん(右)