Case: 東京ガス『副キャプテン自由化』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、東京ガス株式会社の『副キャプテン自由化』を取り上げます。4月からの電力自由化に向け、1月1日から順次O.A.されている東京ガスのTVCM。第1弾となる「バーバースガ・自由化ショット」篇では、人気サッカーマンガ『キャプテン翼』の作者 髙橋陽一さんが描き下ろしたマンガ『副キャプテン自由化』が披露されるとともに、髙橋さんご本人もCMに登場。兄妹を演じる妻夫木聡さん、広瀬すずさんらとともにコミカルなやりとりを繰り広げています。さらに特設ウェブサイトでは、マンガの全容がCMと連動した形で公開され、そのストーリーに注目が集まりました。
本クリエイティブの狙いを、東京ガス株式会社 広報部 広告グループ 広告担当部長 桑名朝子さん、同グループ 奥村佳彦さんに伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美

1月からの先行受付スタートに向け、昨年からティザ―キャンペーンを展開

―今回のクリエイティブを、非常にアグレッシブかつユニークなものと感じているのですが、全体をとおし、どのような計画を立てられたのでしょうか。

桑名:本クリエイティブは、おかげさまで方々から好評いただいておりますが、電力自由化に関する当社の取り組みは、昨年からスタートしています。というのも先行受付がスタートする1月は、消費者の情報収集が活発になると想定していましたので、この時期に合わせてヤマをつくる必要性を感じていました。そこで、昨年10月からティザ―キャンペーンとして、まずは「エネルギーは選べる時代へ。」をキーメッセージとした企業CMを展開しました。

当社のTVCMは30秒がメインなのですが、このときは15秒のものを多くつくり、自営業の方、多世帯の方など比較的電気を多くお使いの層に訴求できるクリエイティブを打ち出しました。妻夫木聡さん、広瀬すずさんにも、この時期からCMにご出演いただき、東京ガスの顔としての印象づくりを図りました。そして、CM内では「これから何かが起こります」「電気がおもしろくなる」といったメッセージを発信し、東京ガスに対する期待感を醸成したほか、別のバージョンでは、当社のコーポレートメッセージである「あなたとずっと、今日よりもっと。」をテーマに、信頼感や存在感を訴求し、話題化のための下地づくりを行いました。

新しいサービスにかける情熱が、サッカーの世界とリンクした

―その流れを汲んで、今回の「バーバースガ」シリーズにつながるのですね。なかでも『自由化ショット』篇での『キャプテン翼』の作者、髙橋陽一さんとのタッグには、驚かされました。

桑名:ええ。1月からはキーメッセージを「マイ電気は、東京ガス。」という力強いものに替え、クリエイティブのトーンも大きく変更しました。ただ、電力自由化に対する消費者の関心は高まるものの、内容の理解はなかなか進まないと予測していました。そのうえで今回のクリエイティブなのですが、分かりづらいものを説明しようとすると情報が膨大になり、CMの尺に盛り込んでも易々とは届きません。そういった課題を前に、マンガの主人公が話す形をとれば関心を寄せるきっかけになるのでは、というところから、今回の企画へとつながっていきました。

奥村:東京ガスが、「電気」という新しい分野に挑戦するということで、これにかける情熱やエネルギッシュなさまを表現するのに、スポーツマンガがふさわしいと考えました。また、当社のサービスプランは、電気を多く使うほど「お得」になる体系となっていますので、お子さんのいるご家庭、つまりは30~40代に響く作品が良いという声が出ました。家計の中心は、妻であり母親である女性の場合が多いのですが、住居やライフラインの契約となると、夫が、または夫婦で相談して決めるケースが多いことから、男女ともによく知られているマンガをモデルに展開することが決まりました。

スポーツマンガは、人気かつ有名なものがたくさんありますが、その中でもサッカーはゴールに向かって、チーム全体が突き進む一体感や高揚感があります。これらのイメージが、私たちの電力事業にかける思いに合っていました。加えて、当社は『FC東京』というサッカークラブをスポンサードしており、社内でなじみやすいという側面もありました。

©️高橋陽一

―マンガ『副キャプテン自由化』は、どのように生まれたのでしょうか。

桑名:クリエイティブディレクターをお務めいただいた株式会社電通の澤本嘉光さんから髙橋先生に打診していただいたところ、快くお受けいただけました。先生には、あらかじめこちらで用意した絵コンテに基づき、執筆をお願いしました。期間は1か月ほどでしょうか。電力自由化が分かりやすい、かつ東京ガスの登場感をインパクトをもって表現できる企画になりました。

―CM『自由化ショット』篇の撮影エピソードはありますか。

桑名:監督の永井聡さんは、ディティールをとても大切にされる方で。CMの中盤に広瀬すずさんが三角コーンの間をドリブルするシーンがあるのですが、監督は足の外側でボールを蹴るアウトサイドキックにこだわられ、今回、広瀬さんに挑戦いただくことになりました。これは、内側で蹴る場合と比べて高度な技術が必要になるのですが、高い運動神経をお持ちの広瀬さんもかなり苦労されたようで、本番前はとても緊張なさっていました。とはいえ、さすがのプロ意識で、華麗なボールさばきは、本当にお見事でした。続くジャンピングボレーシュートのシーンでは、人生初のワイヤーアクションに挑戦していただいたのですが、地上10メートルほどの高さに宙づりになっても怯むことなく、撮影を順調にこなしていらっしゃいました。シュートのフォームも美しく、迫力満点の姿にスタッフから感嘆の声があがっていました。

奥村:現場では、妻夫木聡さんが率先して周囲とコミュニケーションを図り、空気づくりをされていたのも印象的でした。また永井監督とは、以前映画でご一緒されていることもあり、意思疎通も進行もとてもスムースでした。

©️高橋陽一

―設定をヘアサロンにした理由を教えてください。

桑名:一つは、「セットする」「カットする」「まとめる」といったヘアサロンのメニューが、わたしたちのサービスにそのまま通じるため、東京ガスの電気を説明するのに分かりやすいと考えたことです。あとは、シリーズ展開のしやすさでしょうか。第3弾以降のCMも、この『バーバースガ』に、さまざまなゲストが来店し、妻夫木さん・広瀬さん兄妹とやりとりをする形で進んでいきますので、そんな汎用性の高さも理由に挙げられます。

セットも細部までこだわりを持ってつくっており、上質な雰囲気とともに、ちょっとレトロでおとぎ話のような空気が漂っていますので、そんなところにもご注目いただきたいですね。

©️高橋陽一

―マンガ『副キャプテン自由化』やTVCMに対する視聴者の反応はいかがでしょうか。

奥村:髙橋先生ご本人が出演されていることへの驚きや、描き下ろしマンガの感想が寄せられています。「広瀬すずさんが格好良い」という声も多いですね。また、先ほど『FC東京』の話をしましたが、CMに出てくるサッカー場は、実は小平市にある東京ガスのグラウンドで、FC東京も練習に使用している場所なんです。これにファンの方が気づき、SNSに投稿されているのを見たときには、驚きました。

描き下ろしマンガがフックとなり、ウェブへの流入が増加

―サービスの申し込みにつながっているという点ではどうでしょうか。

桑名:おかげさまで、マンガ『副キャプテン自由化』が呼び水となり、CMをご覧になった方がウェブサイトでマンガの全容をお楽しみになるという流れができています。そこからサービス概要のページに遷移され、お問い合わせにつながるケースも多く、滑り出しとしては相当良いかたちになりました。また、電話のお問い合わせも、三が日が明けた1月4日からの2週間で6,800件におよびますので、ウェブを含めると相当数になるのではないでしょうか。

東京ガスは、「信頼は厚い。けれども活気がない」「インフラとして生活に溶け込み、存在感が薄い」など、言ってしまえば、「顔の見えない」イメージを消費者の方がお持ちだということが調査を通じて分かっています。とはいえ、これから新しいサービスをスタートするにあたり、お客様に選ばれる存在になっていく必要があります。今回のクリエイティブを機に、東京ガスが新しいサービスの提供にアグレッシブに臨んでいく姿勢や熱意をお伝えすることで、東京ガスへの期待感を高めていただくと共に、これまでのエネルギー供給を通じて培ったお客様との関係をより強固なものにしていければと思っています。

東京ガス株式会社 広報部 広告グループ 広告担当部長 桑名朝子さん(右)
東京ガス株式会社 広報部 広告グループ 奥村佳彦さん(左)