Case:KIRIN「GREEN NAME by 淡麗グリーンラベル」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回はKIRINの人気商品「淡麗グリーンラベル」のデジタル施策『GREEN NAME by 淡麗グリーンラベル』について取り上げます。自分の名前を入力すると、名前の漢字に含まれるグリーンな部分(森、木、山、田、土、川など)がアニメーション化して、自分だけの「GREEN NAME」が完成する今回のキャンペーン。キャンペーン立ち上げの経緯から、制作の裏話、デザインへのこだわり、そして今後の展開まで、株式会社電通 CDC プランナーの尾上永晃さん、同社 CDC アートディレクターの相楽賢太郎さん、株式会社パーティー テクニカルディレクターの中村大祐さんにお話を伺いしました。

Interview & Text : 坂巻 渚

商品が持つ「心地良い雰囲気」を伝えたい

—まず、今回のキャンペーンが立ち上がったきっかけを教えて頂けますか。

尾上:「淡麗グリーンラベル」という商品は、これまで大きなデジタル施策をしたことがなく、デジタルを活用してもっと若い人たちに「グリーンラベル」という商品を好きになってもらいたいという所から始まりました。以来「グリーンラベルらしさとは何か?」ということを追究してきましたが、今回は「イインダヨ!グリーンダヨ!!」のCMでおなじみの、緑の中でみんなが遊んでいる心地いい雰囲気をデジタル上でも伝えていきたいということになりました。「グリーンを身近に感じてもらいたい」という想いは商品のコンセプトでもあるので。なんとか商品の持つ「ふわっとした」心地良い雰囲気を伝えることはできないかと議論を重ねました。

—どのような案が出たのですか?

中村:人の名前の漢字の中にある”グリーンな部分”を探しだして、それをアイコン化してパッケージにする、という案が相楽さんから出ました。グリーンラベルのパッケージ上の「淡麗」部分に桃の絵が書いてある缶を作るとか。ビールというより桃缶みたいに見えて驚きましたが(笑)ただ、漢字が変化するのは面白い案だという話になりました。

相楽: 身近な人で考えると、ほとんどの人の中にグリーンがあるというのは発見でした。ただ、その段階ではどのような方法で表現するのがベストなのかが見えていなくて。打合せをする中で、中村さん、尾上からジェネレートサイトを作るのが面白いのではという話になり、その段階で今の形がほぼ決まりました。

中村:そこから、ジェネレートするのは「名前」だけに集約した方が面白いねという意見が尾上さんから出てきたんです。自分の名前なら誰でも愛着があるので、「身近な所にグリーンを見つけた!」というコンセプトも決まりました。
中村:今回、キリンさんから頂いた目的が「ブランディング」だったということもありますね。Web系の施策だと「商品をバズらせてほしい」、「商品の購入につなげてほしい」などの依頼が多い中、純粋に「ブランディング」が目的というのは珍しいケースでした。

尾上:バズらせるとなると、ある程度極端なことをする必要が出てくると思うのですが、やわらかい雰囲気のグリーンラベルにはそういった極端なことが全く似合わないんです。それでバズらせるのはなかなか難しいという話をしていて。最終的にはブランドを傷つけずに、「グリーンラベルらしさ」がきちんと伝わるちょうどいいラインを見つけることが出来たと思います。

[提案資料の一部]

美しさとロジックでこだわり抜かれたデザイン

—制作で大変だったこと、苦労したことを教えていただけますか?

尾上:「GREEN NAME」に決まったのが9月頭で、リリースが11月16日だったので、制作期間は実質2ヶ月半と非常にタイトなスケジュールでした。

中村:とにかく大変な制作でしたね(笑)ただ「GREEN NAME」を最初に提案した時に、今とほぼ同じデザイン案が出ていて、そのおかげで1ヶ月ほど制作期間を短縮できました。クライアントにもとても好評でした。

相楽: プレゼン前にはもっとリアルなデザインなども検証したのですが、無数にある名前の中で
どういう漢字同士が合わさるかわからないので、完成形が同じトンマナでまとまるようにフラットで少し素材感を感じるデザインにしました。

中村 : あと、デザインをどう組み合わせるかという仕様の問題がありました。漢字の組み合わせがなかなか難しくて。例えば「森森」さんという方がいると、「森」は上に広がるデザインなので、2つの「森」が続くとデザインが重なってしまい、どちらかのデザインを小さくする必要が出てきます。ただ、今回漢字のデザインを担当してくださったアドブレーンの方々のインプットがとても早く、1回目の打合せで仕様の方向性をほぼ決めることが出来ました。デザインチームがサーバーサイドでの合成ルールについて、率先して意見を出してくれたのも今回大きかったですね。

[検証中のデザイン画]

—漢字の組み合わせは無数にある気がしますが…もう少し詳しく教えていただけますか?

中村:漢字の種類自体はとても数が多いのですが、その中で人の名前に使われるような漢字は3000字ほどです。まずは手作業で3000字を机の上に並べて、グリーンが含まれている漢字を1字1字仕分けしていきました。「森」や「林」のように漢字そのものがグリーンであるものはもちろん、「村」の様に漢字の一部にグリーンが隠れているものも含めて、最終的には約700字まで絞ることが出来ました。あとはその700字をデザインしてアニメーション化させるのみと。

尾上:700個もアニメ−ションを作るなんて相当大変ですよね。

中村:アニメーション担当者から、アニメのサンプルを見せてもらった時は予想以上にすごいものがあがってきました。その時点で「これを本当に700個も作るの?」と驚きました。制作期間も残り2ヶ月をきっていました。

尾上:デザインも1個1個手書きで、グリーンが生成されるまでの途中のアニメーションも相当凝っているんです。

相楽:漢字700文字、大小や、位置による反転もふくめるとデザインパターンはその何倍もの数になりました。期間内に間に合うかという所ももちろんですが、1個でもデザインの手を抜いてはいけないと思い、デザイナーと一緒に2ヶ月間、漢字と睨み合う日々でしたね。

—デザインで1番大切にした点は何ですか?

相楽:どんな名前であっても綺麗な絵になるようにということを工夫しました。例えば、色数についても際限なく使ってしまうとごちゃごちゃしてしまうので、緑と赤はそれぞれこの色、彩度・明暗はこの数値内というように、最初に決めた範囲内の色であればどれを使っても綺麗な絵になるようにルールを決めました。
あとは全体として見た時にいかに綺麗に見えるかという点にはとてもこだわりました。虹と木は共存できるけど、水の上に木があったらおかしいなど、ロジックを意識しながらデザインを考えました。
これまでグリーンラベルが築いてきた「心地いい雰囲気」をいかにうまく伝えていくかということは常に意識していましたね。

—制作には何名くらいの方が関わっていたのですか?

中村:デザイナーが6名、フロントエンジニアが2名、サーバーサイドエンジニアが3名、アニメーターが8名です。相楽さんからの提案で、平岡政展さんの映像を見て、これでやれたらすごいと満場一致で決まり、アニメーションディレクターは平岡さんにお願いしました。

相楽:平岡さんをはじめとするアニメーションチームのクオリティには驚かされるばかりでした。ここまでユーザーに楽しんでもらえるクリエイティブになったのは本当にアニメーションクオリティの力だと思います。

—水や鳥のさえずりなど、音楽もとても心地よかったです。

相楽:グリーンラベルの心地いい世界観とポップな部分を音楽でうまくつなぎたいと思い、音楽家・蓮沼執太さんにお願いしました。ポップと言っても、あまり子供っぽい雰囲気にはしたくなくて。

中村:音楽プロデューサー濱野さんからの提案だったのですが、蓮沼さんは「フィールドレコーディング」と言って、新潟辺りの森や川で自然の音を録音し、その音をためていたんです。特に今回は環境音を沢山使うということもあり、ぜひ蓮沼さんにお願いしようということになりました。

デジタルからリアルへ。「GREEN NAME」が目指す永遠のエンゲージ

—ターゲットはどういう方たちだったのですか?また実際はどうでしたか?

尾上:ターゲットは20代から30代の女性です。商品自体は女性向けという訳ではないのですが、デジタルを活用することでその層にも好きになってもらえたらと。実際に「GREEN NAME」を使ってくださっている方も男女比3:7と女性が多いという結果が出ています。

—SNSでの反応はいかがでしたか?

尾上:意外とTwitterでの反響が多かったですね。
中村:「GREEN NAME」は名前を使うものなので、実名制のFacebookでのシェアは多く、一方でTwitterではあまりシェアされないだろうと予想していました。ただ実際にキャンペーンが始まってみると、キャラクターや有名人の名前で「GREEN NAME」をつくってツイートしてくれる方が結構多くて。坂本龍馬などの偉人の名前を使う人はいるだろうと予想していたのですが、キャラクターは予想外でしたね。
初期は割とアニメ好きやジャーニーズ好きの方が多かったのですが、徐々に若い人たちが自分の友達に勧めてくれるなど、いい流れができていました。

—SNS上でシェアされやすいように工夫もされたんですか?

相楽:Gifアニメで美しくループするように工夫しました。

中村:平岡さんのアニメーションが本当に素敵だったので、できるだけ沢山の方に見てもらいたいと思ったんです。1回再生だとアニメーションをほんの一部しか見ることが出来ないので、何回も再生可能なGifアニメにしました。あとはシェアされる方が色んな所でシェアできるよう、動画を最も綺麗に見てもらえるファイル形式なども調べました。

尾上:「GREEN NAME」を体験してくださった方はもちろん、シェアを見た方にもグリーンラベルに対していいイメージを持ってもらえれば2重にいいですね。

—特に嬉しかったコメントはありますか?

相楽:「自分の名前にこんな意味があったんだ!」という言葉は嬉しかったですね。

尾上:「親に感謝!自分の名前がもっと好きになった。」とか。

相楽:あとは、最近Facebookの名前を英語で登録する人が多くて、友達同士でも名前の漢字を知らなかったりするんですよね。自分の漢字についてあまり意識する機会がない中で、改めて名前に興味を持ったり、喜んでもらえたのはよかったですね。

—これまでにいくつの「GREEN NAME」が作られているんですか? 併せて当初設定したKPIも教えていただけますか。

尾上:12月上旬時点で120万個です。KPIはちょっと安全な所ということで4万生成でした(笑)動画再生とは違い、名前入力など手間がかかる非常に能動的な体験であることを考えると、この数はかなりよかったと思っています。

中村;今後、どれくらい商品に好感が持たれているかなどの調査もしていく予定です。

—今後の展開や方向性について教えていただけますか?

尾上:今後は商品の売り場でも「GREEN NAME」を作れるようにしようなどの話も出ています。12月初めには、LINEギフトで友達の名前が入った缶を送るプレゼントキャンペーンも実施しました。

中村:今回かなりいいソースができたので、これを今後色々な所で使っていきたいと思っています。「GREEN NAME = グリーンラベルがやっていること」というイメージを展開していきたいなと。

尾上:昨年末12月19日からは、自分が作った「GREEN NAME」をトートバックにプリントできるサービスもサイト上で始まりました。同時に、「GREEN NAME」が印刷されたトートバックや缶バッチ、シールを作ることが出来るようなイベントも実施しました。デジタルだけで終わらせず、一生手元に残るものを作って、それを持ってもらうことで初めて真の意味でのエンゲージやブランディングになったらいいなと思います。メイン商戦期が4月頃なので、その辺りでもリアルなキャンペーンを手がけていきたいですね。

相楽:デジタルキャンペーンの傾向として、流行ったとしても半月もすれば昔のものになってしまうんですよね。せっかく想いを込めて作ったものなので一瞬で風化させたくないという想いもあり、デジタル施策の次のステップとして、リアルなグッズで永遠のエンゲージを目指してチャレンジしていきたいと思っています。
話題にはなるけど何も残らないようなクリエイティブや、内容は素晴らしくても実際には誰もやっていないようなクリエイティブではなく、今回は「拡散と深さ」をうまくブリッジできたと実感しています。

(左から)
株式会社電通 CDC プランナー 尾上永晃さん
株式会社電通CDC アートディレクター 相楽賢太郎さん
株式会社パーティー テクニカルディレクター 中村大祐さん