Case: 慶應義塾大学 應援指導部 “慶早戦ポスター”

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は「ビリギャルって言葉がお似合いよ、慶應さん。」「ハンカチ以来パッとしないわね、早稲田さん。」などのコピーが秀逸と大きく話題になった、慶應義塾大学 應援指導部の、東京六大学野球「慶早戦(早慶戦)」ポスターを取り上げます。

これらのポスターを手がけた慶應義塾大学應援指導部OB・株式会社 電通 第5CRプランニング局 コピーライター 近藤雄介さん(文中K)、慶應義塾大学應援指導部 主将 堤史門さん(文中T)に、ポスターの制作秘話や、應援指導部として2年前から情報発信に力を入れ始めたという、今回のポスターに繋がる経緯についてお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)

「話題のポスター」の前から、着々と情報発信に力を入れていた

—主将で現在大学4年生の堤さんと、OBで社会人2年目の近藤さん、大学時代も一緒に活動されていたのでしょうか?

T:はい、まさに今回のポスターは2年前、4年生だった近藤先輩が力を入れ始めた情報発信の系譜にあるものです。ホームページの内容を充実させたり、TwitterやFacebookを積極的に更新するという動きが始まりました。私は当時2年生だったのですが、その活動を近くで見させて頂いていました。

—当時(2013年)近藤さんが4年生の時、情報発信に力を入れようと動き出した理由は。

K:ホームページに人を呼び込んでも、楽しんでもらえるコンテンツがなかったのが当時の現状でした。また應援指導部にも元々、広報的な仕事を担う役職もありませんでした。そこで応援の音源や動画を積極的にアップしてみたり、各種慶早戦をUstreamで(現在はニコ生で)配信してみたりという試みを始めていきました。

Ustreamは早稲田OBの業者さんが無償でやってくれたり、早・慶の放送研究会が設備を担当、アナウンス研究会が実況、OBが解説をやるという座組みでスタートさせました。また「ユニコンくん」という應援指導部のマスコットキャラクターも活用しきれていなかったので、特設ページを作ったり、「ユニコンくん」Twitterの更新を増やしたりもしましたね。應援指導部は全ての部活を応援する立場なので、応援する為の仕組みをこれまでの座組にとらわれずに作っていきましょうという思いでした。

—当時の反応はいかがでしたか?

K:体育会ファンの方々からは「ありがたい」という反応を頂いたり、ホームページのアクセス数が10倍になったりしましたが、とはいっても、他のプロスポーツなどに比べればコンテンツ力はまだまだ低いなと感じていました。

—近藤さんが社会人になり、堤さんが3年生になった翌2014年はどんな企画を進めていたのでしょうか。

T:LINEスタンプ制作をしようと。ただ当時はクリエイターズスタンプがまだ始まっていなかったので、ようやくこれから審査を出すところです。東京六大学野球秋季リーグ戦前には発売出来ればと思っています。

K:早・慶を中心に学生スポーツを盛り上げていくべく、慶應の應援指導部「ユニコンくん」と早稲田の応援部「わーおくん」それぞれのスタンプが出て、スタンプで応援合戦が出来たら良いなと思いました。こういうスタンプなら、学生スポーツに興味のなかった慶大生でも面白がって使ってくれたりするでしょうし。流行っているLINEスタンプの傾向を踏まえながら、慶大生が使いやすい、けどクセのある突っ込みどころのあるものにしようと日吉の食堂で図案を出し合ったりしていましたね。

—現役当時の近藤先輩を、堤さんはどのように見ていましたか?

T:Ustream配信でご協力頂く業者さんとの懇親会に呼んで頂いたり、「ユニコンくん」の着ぐるみ発注など具体的な部分を任せて頂いたりして、「楽しそうだな」と思っていました。これらの活動は本来の部活動とはプラスアルファの部分ですが、そこに苦痛は感じなかったです。

K:実はこれらの企画って部内に向けた意味も大きいんです。

—それはモチベーションの面として、ですか?

K:そうです、應援指導部は体育会を応援する団体なので、チャラチャラしたやつに頑張れって言われたくないじゃないですか。ちゃんと応援出来るように練習が厳しくて辛いこともあるんですよ(笑)。そんな毎日の中に、こういう業務があったらちょっと楽しんでやれるんじゃないかなと。

—近藤さんは今コピーライターとして広告の仕事に携わられていますが、学生時代こういう情報発信をしてきたことが、今の仕事に繋がっている面もあるのでしょうか。

K:面白いなと思いましたし、一方、もっと知って欲しいという思いだけでも限界があるとも感じました。箭内道彦さんの「広告とは応援である」という言葉を知って、「そうか、広告だったら応援出来るな」と気づきました。コピーという技術を身につけて、技術を身につけたら、広告という力でいつかは応援できればと思い、志望理由も「学生スポーツを応援する」というものでした。(今回のポスターで)こんなに早く応援できるとは思っていませんでしたが(笑)。

みんながどこかで持っている両校のイメージを体現

—そして今年のこのポスター。近藤さんと堤さんは、社会人2年目と大学4年生(主将)という立場になった中で、普段はどんなコミュニケーションを取っていたのですか?

K:(社会人になり)コピーについて色々学んでいく中で「應援指導部のことを書いたら、どうなるかな」とアイデアを色々ストックしていて、三田の行きつけの喫茶店で「新歓でこんなことやったら面白いんじゃない?」とか、色々普段からアイデア交換をしていました。

今回のポスターは、両者を登場させて対立構造にした広告って学生スポーツだからこそ出来ることだなと思っていた時に、「(両者が写真で)向かい合っているのはどうですか」という彼(堤さん)のアイデアがうまく合致して生まれました。

[ポスターの原案となったスケッチ]

—対立しているそれぞれの人選は、どのようなイメージだったのですか。

K:最近は早稲田と慶應のイメージの差がなくなってきているので、あえて昔の両校のイメージをそのままぶつけてみましょうという考え方です。早稲田の愚直でまっすぐな感じと慶應のお高くツンツンした感じという、みんながどこかで持っている両校のイメージとフィットするように選びました。

5パターンあるので、コピーも「全部読んだら慶早戦がわかる」という構成にしました。例えば野球部は真剣に戦っている中であまり変なコピーを載せたくなかったので、優勝決定の条件を反映したコピーにしましたし、マスコットは少しひどいことを言っても可愛げがあるとか、吹奏楽は両校を象徴する歌を入れたりとか。ちなみにリーダー部の「早稲田の勝利しか、見えない。」「それは視野せまい。」は彼が普段から言いそうな言葉をイメージしています(笑)。

T:普段から、ちょっと冷めたことを言いがちと言われるんです(笑)。

K:「視野せまい」とちょっと斜に構える感じが慶應っぽいなと。そして、やはりチアリーディング部が一番良く撮れていたので、そこにハマるコピーは何か、すごく考えましたね…。慶早戦は試合前にも煽り合いのコールをやったりするんですが、煽りとして良い言葉がないかと考えていたら「ビリギャル」がパッと浮かびました。

チアを表現する「勝利の女神」といわば対極の言葉なので、チアの写真と一緒に載せると意外性もあるじゃないですか。また、一番新しい慶應を表す言葉だなとも思いましたし。ただ単刀直入に「ビリギャル」と表現すると刺激が強いので「ビリギャルって言葉がお似合いよ、慶應さん。」と少し表現は和らげました。

さらに「ビリギャル 対 何か」という分かりやすく対決構造がイメージ出来る言葉は何かなと考えると、「ハンカチ」だと分かりやすいなと。ここも個人攻撃になってしまってはよくないので「ハンカチ以来パッとしないわね、早稲田さん。」という「ハンカチ王子の頃の華々しい活躍や報道があった頃」から比べると盛り上がりが減っているんじゃないか、というニュアンスにしました。

—それぞれのコピーが生まれた経緯は?

K:僕が書きまくって、一緒にやってくれた同期のアートディレクターに見せて意見をもらって、「え、これってどういうこと?」などと反応があった時は、「これじゃ響かないんだ」と書き直したりして、そこで絞られたものを現役の部員に見せて「いいですね」となったものを採用しました。この同期のアートディレクターはスタンプにも協力してもらっていたので僕らの思いもわかってくれている一方、芸大出身で慶早戦からある意味遠い存在でもあるので、率直な意見をくれるんです。

—一気にSNS上でバズったきっかけというのは?

K:実は会社の先輩(電通・阿部広太郎さん)がきっかけなんですよ。たまたまスタバでカタカタやっていたら「何やってるの?」と聞かれて、「ポスター作ってるんです」なんて言いながら見せたら「面白いね!データ送ってよ」って言われて送ったら、いつの間にかツイートしてくれていて、周りから「バズってる」って電話がかかってきました(笑)。

[阿部広太郎さんのツイート]

—学内での反応はいかがでしたか。

T:ポスターが盗まれたり、いつもはなかなか受け取ってもらえないビラもすぐなくなったり、私もキャンパスを歩いていると「“視野せまい”の人ですか?」と言われたりしました。

K:ポスターは日吉、三田、SFC、ラーメン二郎三田本店という4拠点に貼りました。

—当日の盛り上がりもすごかったのでは?

T:初戦の5/30(土)は満員の34,000人でした。翌5/31(日)も早稲田の優勝が前日に決まった、いわば消化試合であったにも関わらず30,000人越えでした。

K:球場の方のご協力もあり、当日(試合会場の)神宮球場にも貼ることができました。土曜にこの試合に来たという思い出をシェアしてくれて、その投稿を土曜に見た方が日曜に来てくれたりもする可能性もあると思ったので、当日は絶対貼りたいと思っていました。元々の5種類以外にも、自分が入って写れるような背景だけのバージョンも用意しました。早稲田側からも沢山来てくれましたね。

T:私も土曜に負けて落ち込んで帰ろうとしていたら、一緒に撮ってくださいと言われたりもしました(笑)。

K:近年は娯楽の充実とか、昔と比べて慶早戦に人が来ないとか、色々言われているんです。確かに学生の質が変わって「対決しなくてもいいじゃん」と思うようになったのでは…と感じていたので、今回は両校の学生のどこかにある愛校心をくすぐってやろうという狙いがありました。

これからも継続して企画ができるような集団に

—やはり、今後もこの盛り上がりを継続していこうというお話も挙がっていますか?

T:はい、秋のリーグ戦でも何かしたいという話をしています。また、来年の春には私も卒業するので来年以降を見据えて、下級生の中でこういった企画を進めるチームを作ることも考えています。

K:今回、現役の部員達も「ここまで話題にすることが出来るんだ」と身をもって体験することが出来たと思います。今回の「こういう課題があって、こういうテーマを設定して、こういう企画をしました」という情報は私からもちゃんとシェアして、まず次の秋は現役部員だけで企画ができるような集団に変えることが出来たら良いなと思っています。

—OBとして関わられた近藤さんご自身としても、きっとこれからのお仕事に活きる面も。

K:まだ私は2年目の駆け出しのコピーライターに過ぎなくて、今回も慶早戦というコンテンツがあってこそ話題になったと思うんです。まずはコピーライターとしてもっと勉強して、もっといろんなものごとを応援していきたいです。やはり「応援したい」という気持ちがコピーを書く上で最も大事だと思いましたし、コピーが多くの人に伝わったという本当に貴重な経験をさせて頂くことが出来ました。

—堤さんは今4年生ということは、就職活動中。今回の経験は将来にも繋がりそうですね。

T:そうですね、やはりこれまでで一番大きい経験でした。

K:企画、制作、メディア対応まで全部やっていますからね。

T:「自分がこういうことをしたら、受け手がどう思うかな」と考えることがとても楽しかったです。実際に色々考え抜いて、動いて、形になって世に伝わったという体験をさせて頂いて、元々志望していた広告業界に入ることが出来たらこういう体験がきっと出来るのかな、是非行きたいなという思いが一層深まりました。

K:実は彼は昔からこういうことが考えられる・出来る子だと思っていたので、私が4年の時、当時2年でありながら一緒にやってもらっていたんですよ。もしまた同じ業界で一緒に働くことが出来たら、それは嬉しいですね(笑)。

画像提供:慶應義塾大学 應援指導部

株式会社 電通
第5CRプランニング局 コピーライター
近藤雄介さん(右)

慶應義塾大学 應援指導部
主将
堤史門さん(左)