Case: 講談社『進撃の巨人』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は講談社「別冊少年マガジン」にて連載中の『進撃の巨人』を取り上げます。”日本全国進撃化計画”として、東京での開催後、大分・大阪でも開催が決定した「進撃の巨人展」など全国各地でイベントが実施されている中、さらに作品に親しんでもらうきっかけとして「関西弁版」の無料配信が行われました(公式サイトや各電子書店にて。現在は終了)。これらプロモーション施策や外部とのコラボレーションを積極的に展開する理由を、株式会社 講談社 週刊少年マガジン編集部 副編集長 川窪慎太郎さんに伺いました。

Interview : 石原 愛美(Aimi Ishihara)/Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)

面白い漫画を「じゃあどうやったら読んでもらえるだろう?」と考えるのが、担当の仕事

—まずは、なぜ「関西弁バージョン」を公開したのでしょうか?

『進撃の巨人』担当としては、間違いなくこの漫画は面白いと思っているんです。その面白い漫画を「じゃあどうやったら読んでもらえるだろう?」と考えるのが、担当の仕事だと思っています。まずは1巻を読んでもらいたい、読んでもらえる為にはどんな施策をすればいいかとdot by dotさんに相談して生まれたのがこの企画です。

一番漫画が売れるのはメディアミックスを仕掛けた時です。これまでもテレビアニメ、実写版といったメディアミックスを仕掛けてきました。一方で、そうではない新しいプロモーションも積極的に仕掛けていきたいと思っており、美術館で「進撃の巨人展」という展覧会を実施したりもしました。今回もその新しいプロモーションの一つですね。

自分の作品をギャグにしていくというのは嫌がる人もいると思うのですが、(作家の)諫山創さんは嫌がらないだろうなと思ったし、シンプルに「面白そうですね」と乗ってくれました。

—公開されたタイミングについても、狙いはあるのでしょうか。

今回は単行本15巻と16巻の間です。単行本が出るのが4ヶ月に1回で、その発売のタイミングは必ず盛り上がるのですが、その間のタイミングも盛り上げたいという狙いです。

—読者からの反応はいかがでしたか?

関西に限らず他の地域でも受け入れられた印象があります。(関西の有名番組だった)「痛快エブリデイ」記述に反応されている方が多かったですね(笑)。dot by dotさんは比較的関西出身の方が多いにもかかわらず最初の案ではもう少しおとなしい案だったのですが、もっとご当地ネタを入れて下さいとお願いして、現在のものになりました。ダウンロード数は90万以上となりました。

—実際に、売り上げにも繋がりましたか?

既刊の売り上げが対前月比250%(150%増)となりました。

外部とのコラボは、仕掛ける方が本当に「面白がって」提案してきてくれるかどうか

—リアル脱出ゲーム、USJ、読売ジャイアンツなど、様々なコラボレーションを行っていますよね。積極的にこれらの施策を実施する理由はどのようなものでしょうか?

諫山さんは比較的「何でもあり」な作家さんです。ただ常におっしゃっているのは「関わっている人が面白がってくれるかどうか」です。世の中でも「何でもコラボするね」と言われることもあるんですが、その条件は代理店の方でも、メーカーさんでも、仕掛ける方が本当に「面白がって」提案してきてくれるかどうかですね。

編集者はいろんなタイプがいるのですが、僕はわりと「自分自身はクリエイティブな能力がない」と思っています。作品に貢献出来ることが何かといえば「作品自体を面白くする」のではなく「面白い作品をどれだけの人に気づいてもらえるか」というところです。様々なコラボをすることで、漫画以外の媒体でも作品に接触してもらいたいです。例えば車のCMでも、CMを見てすぐに買いにいこうというわけではなく、さぁ車を買おうとなった時にはじめてその車を思い出すじゃないですか。同じく漫画も接触回数を増やすことの積み重ねだと思っています。

—今後のコラボレーション企画についても是非教えてください。

東京・上野で実施した「進撃の巨人展」を大分や大阪でも実施します。月に一回、何を観るか特に決めずにフラっと美術館に行く方って結構いると思うんです。そういう方にも楽しめるように単なる漫画展ではないアート性も担保しつつ、『進撃の巨人』の世界観を体感してもらえたらと思っています。

ハイファッションブランドともコラボしたいですね。アートやファッションといった漫画と一見遠い世界の方が、アート入り口、ファッション入り口で興味を持ってもらえるように、企画を考えていきたいです。その他にはスポーツ、特にサッカーなども面白いなと思っているんです。それは僕が熱狂的な鹿島アントラーズサポーターだからということも大きいんですが(笑)。

「漫画」自体が好きという方には既にある程度認知して頂いている感触もあるので、「漫画」にはあまり興味のない、他の趣味をお持ちの方にも作品を知って頂けるように、色々考えていきます。

—さまざまな入り口から作品のファンになってもらえたらいいな、という思いなんですね。

『進撃の巨人』はファンの方々が作り上げてきた作品だと本当に思っています。諫山さんがおっしゃっていたのが「アイドルは完成度のほつれというのが大事で、何か欠けている方が『俺らがなんとかしてあげたい』と思える。だから未完成な部分というのが実は必要なんじゃないか。きっと自分の作品もそういうところがあると思う」と。

僕も担当になってから周りに読んでもらったりするんですが、僕は、諫山さんの画は上手いと思っているんですが、タッチが荒々しいので…「下手に見える」とか「最近疾走感がなくなってますよ」とか、「(ストーリー内の)謎が甘い」とか、みんな言うんです(笑)。昔は「怒らせたいのか?」と思ってたんですよ。ただそういう事を言うのは何故なのかということが、なんとなく少しずつ分かってきました。「どうにかしたい」「この作品をよくしたい」という欲求を駆り立てる不思議な魅力が『進撃の巨人』にはあるんだと思います。

僕の周りだけではなく、ファンの方々が一緒に盛り上げてきてくださったことが人気を頂いた理由ですから、今後様々なプロモーションを考えていく上でも、巻き込み型のことはやっていきたいですね。アイデア募集中です(笑)。

画像:©諫山創/講談社

株式会社 講談社
週刊少年マガジン編集部
副編集長 川窪 慎太郎さん