Case: 「東京喰種 トーキョーグール:re」 喰種捜査官 [急募]

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は集英社・週刊ヤングジャンプにて連載中「東京喰種トーキョーグール:re」による、インテリジェンスの求人情報サービス「an」とのコラボレーション企画「喰種捜査官 [急募]」を取り上げます。特設サイトより必要書類を用意し応募すると若干名が選抜され、著者・石田スイ氏がオリジナルキャラクターとして描き起こし、「東京喰種 トーキョーグール:re」内での捜査官として登場するという、漫画というフィクションの世界と実在するサービスを組み合わせたキャンペーンです。

受付は1月28日(水)まで・当日消印有効とのこと。この”選考”がスタートした経緯や、今後のプロセスについて、株式会社 TBWA\HAKUHODO インタラクティブディレクター/コピーライター 荒井信洋さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)

漫画のストーリーや世界観に、リアルな「人材募集」がマッチ

—まずは企画が立ち上がった経緯を教えてください。

週刊ヤングジャンプで連載中の「東京喰種(トーキョーグール)」という漫画が一度終わり、新章という位置づけの「東京喰種:re」が始まるタイミングで「話題化施策をしたい」というオリエンを受けました。ただ、そのタイミングでは新章がどういう物語になるか僕らは何も知らなかったんです。そこで、ひとまず第一部をひたすら読み返していると最終巻のラストで、人を喰らう怪人「喰種」と、それを捕まえる捜査官の対立の中で捜査官が大量に死んでしまう悲劇が描かれていたんです。

そのシーンを見て、「もし今後も同じ対立を描くなら、圧倒的に捜査官側が不利だな…」と素朴な疑問を抱き、「捜査官の人手が足りない」というリアルな文脈で読者を募集し、出演させることは出来ないかなあと思いました。

—集英社さんの反応はいかがでしたか。

プレゼンでは、屋外を使ったバイラル企画やテクノロジー寄りの企画など、複数案出したのですが、その場で「これがいいですね」と。さらにプレゼン後に連載された第一話を読むと、捜査官側を主人公としていて、まさに捜査官募集している1シーンも描かれていて、「これはいける」と思いました。

—求人サイトと組むという発想はなぜ出てきたのでしょう?

この漫画は東京を舞台にしたダークファンタジーなのですが、ファンのツイートを見ていると「夜道を歩いていると喰種が出てきそうで怖い」という感想があったりとか、リアルとファンタジーが混じっているんですね。

人材募集も、応募フォームで実施することは簡単ですが、もし本当の警察官募集だったら “ガチ”で履歴書を書くはずじゃないですか。だから紙の履歴書という方法を選びました。応募数という尺度は度外視して、リアリティを重視。読者に、新しい感覚のリアルなロールプレイングを楽しんでもらうという狙いです。

今回の企画はやろうと思えばどんなマンガでも出来るとは思いますが、東京喰種だからこそ機能したかなと。それは、東京を舞台にした漫画の「捜査官が少ない、集めなきゃいけない」というフィクションの延長線上にリアルなキャンペーンストーリーとユーザー体験をつくれたからだと思います。

—応募用の「履歴書」もとてもリアルですが、この項目はどのように考えたのですか。

名前や住所といったキャンペーン応募の項目や志望動機などリアルな求人項目は置きつつ、「尊敬する捜査官」や「好きな捜査官の言葉」など、ファンが漫画を読み返しながら悩んで、そして楽しみながら書きたくなり項目も盛り込みました。それって、就職活動で言うOB/OG訪問についてエントリーシートに書く体験と全く一緒で、履歴書も「リアル」をキーワードでつくりました。

—応募規約は随時変更しているようですね。

ローンチ後に爆発的にTwitterで話題になったのですが、一晩中タイムラインを眺めていると、作家の石田スイ先生とファンが「顔写真が抵抗あります、イラストじゃだめですか?」「身長・体重は恥ずかしい」といったやりとりを目にしました。それらの反応を見て、ほぼ翌日には修正案をクライアントに持っていっていましたね。この企画はWEBサイトもシンプルですし、SNS連携といった仕組みも特にないですが、「話のネタをつくる」という意味でソーシャル企画だと思っています。

SNSでみんなが話題にしているからこそ、それをリアルタイムに汲み取って、従来型のキャンペーンじゃできない柔軟な対応(神対応)をする。その結果、ファンが楽しく、気持ちよく参加できるようになればいいなと。

漫画という商材ならでは、独特なSNS上での拡散の動き

—どういった層の方から応募が来ていますか。

届いている履歴書を直接見ているわけではないですが、SNS上での反応は若い女性ファンとかですかね。あと求人という話題は若い層に広がりやすいですね。僕らも学生時代に好条件のバイトを見つけたら「一緒に応募しない?」と話したり、就職活動の時期はエントリーシートの書き方を相談し合ったりしましたよね。それと全く同じようなことが起きていて、ローンチ後も絶えることなく話題がつぶやかれつづけています。

またSNSでの話題化施策は、話題の広がり方がTwitterとFacebookで均等になることが多いと思うのですが、今回はTwitterが99・Facebookが1くらいなことに驚きました。

—それは何故なんでしょう?

漫画のようなサブカルファンの方って、実名じゃなくニックネームでコミュニケーションを取り合っていることが多い。みんな顔のアイコンがキャラクターだったり、名前もIDで呼び合ったり。「趣味で繋がるコミュニティ」を各コンテンツのファンが形成してるという感じです。だからこそ、そのコミュニティで話題にしたくなる企画を投下することを意識しています。

—ちなみに、選考はどのように。

先生がキャラクターにしたい人を選びます。この企画をやる時に最も意識していたことは、ともすれば「作品を壊す可能性もある」ということです。僕らが選んでしまうと作品に「異物」が混入してしまう。プロダクトプレイスメントのように、広告色が見える漫画には絶対にしたくなかったんです。だから、先生の考えを尊重しています。

—出演する方が決まったら、発表はどのような形でするのでしょうか。

採用人数も時期も先生次第ですから、まずは本編での登場が第一ですね。あとはサイトでも何かしらの形で出してあげたいなとは思っています。その時点で、作中で命を落として殉職してしまっているかも知れませんが…

—IDカードや辞令書など、インセンティブとして得られるものも凝っていますよね。

何より、好きなマンガの作中で自分を書いてくれるというのが一番のインセンティブなので、契約金とかIDカードや辞令書などは絶対になければいけないものではないのですが、付け加えることでリアリティが増すかなと。例えば辞令書や契約金が手元に届くと、ファンタジーなのにリアルな体験の手触りがつくれると思ったので。

—「an」のフリーペーパー版でも広告展開を行っていますね。

地域別に刷り分けられるので、地域ごとに異なるキャラクターにして「コレクション」というまた別の切り口で話題になっています。例えば東京のファンが「今こちらのバージョンを持っているけれど、北海道版と交換希望です」などといったとやりとりが生まれているようです。

—これまでも「漫画」以外の商材に携わることもあったかと思いますが、「漫画」は一般の消費材と比べて特殊でしょうか?

ファンがついているという点は強みですね。味方が多いので、キャンペーンの起爆剤になる。よく企画書で「熱狂の可視化」と書くのですが、ファンはそれぞれ作品に熱狂しているんですよ。しかし、一人で部屋で読んでいるだけではその熱狂は見えないじゃないですか。その熱狂を、いかにソーシャルという公の場で「見える化」させることが出来るか、熱狂している人に一言つぶやいてもらえるようなプロモーションを打つかだと思います。ただ簡単というわけではありません。熱があるからこそ、批判も生まれやすい。広告でファンを裏切ってしまえば、作品自体から離れてしまうこともありますから。何よりもまず、僕自身がコンテンツを読み込んで、一ファンになるところから企画をはじめています。

画像:(C)石田スイ/集英社

【Interviewee】

株式会社 TBWA\HAKUHODO
インタラクティブディレクター/コピーライター
荒井 信洋さん