Case: 映画「ホビット」×ニュージーランド航空“壮大すぎる機内安全ビデオ”

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回は、インターネットで話題沸騰中の「壮大すぎる機内安全ビデオ」を取り上げます。

これまで様々な機内安全ビデオをインターネットで独自に公開し、高い注目度を集めるニュージーランド航空。昨年、映画「ホビット」とのタイアップ機内安全ビデオの第2弾「壮大すぎる機内安全ビデオ」を公開し、その反響は、第1弾の視聴数を1週間で超えるというものでした。

決して大きな航空会社ではない同社がとったユニークな施策とは、そしてその根底にあるPRの考え方とはいったいどのようなものなのか、このプロジェクトに関して、ニュージーランド航空広報部長の矢我崎陽子さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 石原 愛美

機内安全ビデオでのタイアップというユニークさがバズを生む

—なぜ映画「ホビット」とタイアップをすることとなったのでしょうか。

我々ニュージーランド航空は、映画「ホビット」シリーズのスポンサーをしております。
「ホビット」は、全編ニュージーランドで撮影された映画「ロード・オブ・ザ・リング」の続編で、同じくニュージーランドで撮影されています。また、監督ピーター・ジャクソンもニュージーランド人です。このような関係性から、「ホビット」の世界観をテーマにした観光プロモーションにつなげる目的で、長期間継続してタイアップをしています。

—機内安全ビデオの「ホビット」バージョンが作られた経緯を教えて下さい。

2009年から、ユニークな機内安全ビデオを、年に2本〜3本ずつ作っています。2012年のホビット第1作「思いがけない冒険」公開の際、機内安全ビデオのホビットバージョン第1弾、「思いがけないブリーフィング」を映画のプロモーションもかねて作りましょうということで、制作したのがはじまりです。

—機内安全ビデオ「思いがけないブリーフィング」はYouTubeで1200万以上の閲覧数があったそうですね。

はい。数多くの方々にご覧頂きました。そして今回の新バージョン「壮大すぎる機内安全ビデオ」は公開から1週間でその閲覧数を越えました。

—前回の反応が、さらに今回の期待感につながっていると思いますか?

それもありますし、前作との内容の違いに関しても反応があったと思っています。前回は「ホビット」を題材にしたものが初めてということで、そのコラボレーション自体が話題を呼びましたが、基本的に機内でのみでの撮影でした。今回はさらにバージョンアップして、機内だけではなく、ニュージーランドの様々な場所でロケをおこない、壮大で、前作よりもパワーアップした内容になっています。

こちらに関しては、メイキング動画も公開しています。制作費は公表されていないのですが、作品自体がバズを生み、宣伝しなくても広まってくれるので、費用対効果は高いといえます。

—今回の機内安全ビデオ「壮大すぎる機内安全ビデオ」の特徴は。

今回、新しい試みの一つとして、現在、ニュージーランドで非常に注目されている映画監督タイカ・ワイティティさんに監督をお願いしました。そこから「よりおもしろいものをつくりましょう」と、どんどん話が広がっていきました。

偶然が生んだ元プロ野球選手とのコラボレーション

—今回の機内安全ビデオには、元プロ野球選手(千葉ロッテマリーンズ・横浜ベイスターズで活躍)の清水直行さんも出演されていましたが、出演経緯は?

清水さんは、2014年7月から、ニュージーランド野球連盟のゼネラルマネージャー補佐を務められており、よく日本とニュージーランドを往復していらっしゃいます。その関係で当社や政府観光局、オークランド観光局と提携され、観光大使のような役割を担って下さっています。そんな中で、本当に運良く、出演してもらうことになりました。

—運良く…とは?!

清水さんとニュージーランド野球連盟の提携直後に、ちょうど我々も撮影を行う予定で、清水さんがニュージーランドにいらっしゃる時期にあたったので、「出てみませんか?」と声をかけました。そうしたら「いいですよ」と返答をいただきました。たまたま時期がぴったりだったということです。

なにぶん撮影当日ギリギリまで本社のほうで内容や手順、撮影日等に変更が加わるため、日本やアジア各国の方をブッキングするのは時間の関係で難しいものがあるのですが、今回は本当に運良く清水さんが快諾してくださり、「ぜひお願いします!」と数日前に話がまとまった次第です。(笑)

—ネット上でも、清水選手が出演するという面でも話題になっていましたね。

当社の機内安全ビデオに、アジアの方にご出演いただくのは初めてのことでした。運良くスケジュールが合ったという経緯ではありますが、もちろん日本人の方に出て頂ければ日本に対してもPRにもなるという考えはありました。

我々日本支社はアジアのチームなので、やはりアジア人が出演するということは、本国だけのみならずアジアの同僚たちもそこに絡んでいますよということを、社内的にわかってもらえるということにもなりました。「アジアにおけるPRとして非常にいいね」という意識が出て、アジアチーム内の士気を高めることに繋がりました。そういう意味でも、清水さんのご出演は大きな意義がありましたね。

—社内での反応はいかがでしたか?

まさか、機内安全ビデオに清水さんが出ているとはと。しかも“ホビットバージョンに、なんだ”と。“ホビットと清水さんは基本的まったく関係ないのに!?”と。それは確かにそうですよね(笑)そこはみんなも“え?!・・・でも面白いんじゃない?”と。出演自体はほんとに一瞬でしたけどね(笑)

「誰も見ていない」ビデオを見てもらえるように、常にユニークさを追求する

—「ホビット」以前にさかのぼって、面白い機内安全ビデオをつくられてきた歴史を、改めて聞かせて頂けますか。

当社におけるユニークな機内安全ビデオ制作は2009年の「ボディ・ペインティング編」から始まりました。当時は、国内線の運賃を、すべて包括した運賃で提供するという試みを始めていました。

例えば、昨今多くの場合、一万円の運賃といっても、そこに燃油サーチャージや預け荷物料金など各種追加料金がかってきますが、それを、「一万円」といったら一万円ぽっきり。これ以外にかかるコストは何もありません、という運賃体系をプロモーションするために“nothing to hide(=隠すものはなにもない)”=“裸”という発想に至り、じゃあ“裸に制服のペインティングをした人が出る機内安全ビデオを制作してみたらおもしろいのでは?”ということで、あのビデオが誕生しました。

—そもそもなぜ機内安全ビデオを使って、様々な試みをされているのでしょうか。

機内安全ビデオは、あまり真剣に見ていただけないことが多いですよね。各国、法律で必ず見せなければいけないと決まっており、伝えるべき項目も決まっていて、非常に重要な情報なのですが、機内を見回してみるとほとんど誰も見ていない。じゃあどうやったら見ていただけるのかと。今まではとは違う、ユニークなものだったら目に留まるのではないかという狙いがありました。

—初回の機内安全ビデオの反響はどうでしたか?

ニュージーランドのみならず、世界中で非常に話題になりました。通常、機内安全ビデオは機内以外では見ることは出来ないものですが、それをネットにアップしたのは我々が初めてではないでしょうか。フライトを利用するお客様以外にも見ていただけたことが、大きな反響に繋がったのではと思います。内容に関しては賛否両論あったようですが…

—機内安全ビデオ「ホビット」シリーズに関しては、前回、今回の反応の違いはありましたか?

基本的には「ホビット」の公開を記念してということで作ったという点では同じです。今回は、イライジャ・ウッドという有名人も出ているという点では話題があったと思いますが、基本的には「ホビット」ファンの人でも、そうでない人でも楽しめる内容になっているという点も共通していますね。

—どの国からの視聴数が多いでしょうか?

国別の細かい数値は発表になっていませんが、反響が多いのはニュージーランド、アメリカ、イギリスのようです。

—日本ではどのような反応が目立ちますか?

「またやってくれた」という感じですね(笑)「また」と言っていただけるのは、当社の機内安全ビデオが面白いということが定着している証拠だと思います。嬉しいですね。

—このビデオを活用し、日本で何か展開を広げたりすることもありますか。

この映像自体で、さらに二次的に活用しようという予定は特にありません。やはり一つのPRツールとして「ニュージーランド航空というのは、こんな面白い事をやっている会社ですよ」ということを伝えるためにご紹介しています。メディアの方に取り上げていただければいただけるほど、さらに広がりをみせると思います。また、2014年12月の映画公開に合わせて、機内安全ビデオを題材にしたクイズ形式のキャンペーンを当社のFacebookページで実施しています。

—この機内安全ビデオを含め、日本市場向けのPRにあたって意識している点があれば、教えてください。

機内安全ビデオは、制作自体は、ニュージーランドにある本社がおこなっていますので、こちらに関して、私どもは「与えられた題材をもとに」PR活動をするという形になります。その中でも、我々、日本支社のミッションとして、ニュージーランド航空というのは決して他社に比べて大きな航空会社ではない。ただ、経営的にも健全で企業としても優良である。

ということとともに、“いつも面白いことをしている、面白いことを考えている会社ですよ”ということを日本の方々にも知ってもらいたいと思っていますね。この機内安全ビデオは、そのPR活動の中で一つの大きいツールになりますが、実は、日本独自でもユニークなキャンペーンを展開するようにしています。2014年夏は、Facebook上で「ニュージーランド休暇申請キャンペーン」というものを実施しました。

ページもかなり作り込みまして、コンシューマーだけではなく、広告業界内でもかなり話題となったようです。我々は、ただチケットを売るためだけ、会社の認知度を高めるためだけ、ということではなく、当社の「革新性」を知っていただくことを常に心がけるようにしています。

【Interviewee】

ニュージーランド航空
広報部長
矢我崎陽子さん