Case: 小学館「CanCam」

話題になった(=「バズった」)日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は電通・NEC・東京都交通局により、都営大江戸線六本木駅ホーム上に設置されたデジタルサイネージ(通称「六本木ホームビジョン」)を取り上げます。5月26日からの運用開始に先立ち、実証実験のひとつとして小学館「CanCam」の広告が5月23日から25日の3日限定で登場。この広告を担当した小学館 マーケティング局 雑誌宣伝課 副課長 山田卓司さんに実施の裏側を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人

リアル感を追求した「電車がくる時の風」。撮影の舞台裏

—まずは、実施のきっかけを教えて下さい。

5月26日からこの六本木駅のデジタルサイネージ枠が稼働するにあたり、電通さんから先立ってこの媒体の価値を上げられる取り組みをしたい、通常のデジタルサイネージだけではなくいろんなことが出来る点を見せたいというお話がありました。いくつかの事例を作りたいという中の一つが、このホームに進入してくる電車に合わせてのサイネージです。

—御社として、これは面白いと実施を決めた理由はどのようなものでしょう。

CanCam(キャンキャン)は毎月23日発売で、今回の取り組みがちょうど23〜25日までの3日間だったため、タイミングが非常によかったことですね。そして出版社は車内吊りや駅貼りなど交通広告に元々馴染みがあるのですが、一方で従来型の交通広告ではないものにトライしていく必要があると思っていた点です。

三つ目は場所が六本木であるということですね。CanCamの読者自体は六本木に特段多いわけではないのですが、広告業界の方や広告主の方、あるいは海外からの観光客など様々な方がいて、いろんな方向に拡散出来ると想定しました。読者層を考えると渋谷や新宿というところになりますが、六本木のホームで直接見なかったとしても、ネット上などで話題になればその先に読者層の方が沢山いるのではとも思いました。

—そして山本美月さんを起用された理由は。

まずは当該号の表紙であったという点ですね。それとともにCanCamを代表するモデルでもありその知名度で話題になるであろうという点、またCanCamの提案する世界観を体現してくれるという点も大きいですね。今回時間のない中でも、「ぜひやってみたい。これが話題になるのであればすごく嬉しい」と二つ返事で快諾を頂きました。

—昼と夜でコーディネートが変わるなど、ディテールのこだわりについてお聞かせ下さい。

時間帯で切り替えることが出来るという機能を活かしました。日中はまさにCanCamが推奨するようなカジュアルスタイルで見せた方がいいですし、夜は六本木らしくドレスアップした衣装で展開するなど、街との親和性を考えました。

また洋服のコーディネートはもちろん、彼女の表情、凛とした姿など、洋服だけではないCanCamの提示する世界観を感じていただくことが出来ればと思いました。ヘアメイクさんとスタイリストさんもCanCam側のスタッフです。

—撮影時、やはり風を作るには苦労されましたか。

風は本当に難しくて、「電車がくる時の風」は大きく巻き込む形でもないし、ゆるめの独特の風なんですよね、本当にリアル感を追求するにはどこからどう当てるのがいいのか、それにファッション雑誌として凛とした美しさをどう見せるかとの両立は苦心したところです。大きめのものから小さめのものまでサーキュレーターを複数使って生み出しました。

—実際の電車の動きに応じて動いているように見えますが、どのような仕組みなのでしょうか。

電車がホームに入ってくる直前に流れる接近メロディーがトリガーになっています。接近メロディーの周波数を感知すると、一番手前のサイネージに設置してあるコンピューターのプログラムが動き出し、電車がホームに入っていくタイミングに合わせて動画が再生されます。

そこから0.5秒ごとに隣の柱に信号が送られることで、電車の通過スピードに合わせて映像が切り替わっているように見える仕掛けになっていました。事前にどの柱を使うかは決まっていたので、実際に電車が進入してから停車するまでの時間を計測し、それに合わせた尺の動画を撮影しました。

ファッション誌「CanCam」の考える、雑誌広告の未来とは

—反響はいかがでしたか。

SNSでの広がりがすごかったですね。「美月ちゃん、かわいい!」はもちろん、「自分の子どもの頃はなかったのにな」という反応があったり、Webで知ってわざわざ見に行った方もいたようです。

また、私たち紙のメディアが「昔はなかった斬新なことをやるというのも面白がって頂いたのかなと思います。さらにメディアを通してもNHKのニュースで「電子看板」として取り上げられて広告主さんからの反応があったり、ネットニュースでも広告事例として、あるいは芸能ニュースとしても、様々な形で取り上げられました。BtoBの方向にもBtoCの方向にも、幅広く話題になったかなと感じています。

—ちなみに、CanCam読者層の近年の傾向で感じられる点はございますか。

(好みが)細分化してきたな、という印象がありますね。大学生や社会人1〜3年目がメインターゲットですが、彼女達は生まれながらにWebがある世代ですからね。今回もツイートでの反応を見たり、ニュースサイトで取り上げられた記事のRT数など我々もチェックしていました。一方ソーシャル上でのバズをそこから先の「購買」に結びつけることはなかなか難しいので、今後も研究していく必要があります。

—今後の構想としてはいかがでしょうか。

純粋に既存の媒体を買っていくだけではなく、デジタルサイネージに限らずクリエイティブを巻き込んで様々なものをやっていかないと、広告効果は高まらないということは常日頃思っています。弊社では「Precious(プレシャス)」という雑誌が5月上旬に、銀座ソニービルの壁面をランウェイに見立てた「空中ファッションショー」を行いましたが、今後もこういった新たな取り組みは増えてくるのではと思っています。

—これまでのいわゆる中吊りなどの重要性はいかがお考えですか。

ものによると思いますね。例えば週刊誌のように見出しで注目を集めるようなものとは相性が良いですし、これからもなくならないと思います。見出しの新鮮さ、キャッチーさもそれはSNS上で拡散していくんですよね。一方でファッション雑誌は文字だけではなくビジュアルでも見せていくものである。このように各誌が生み出しているコンテンツの特性によって上手く組み合わせていきたいですね。

我々雑誌はいわゆるオールドメディアと言われていますが、扱っている情報は、最旬であり、魅力的なものばかり。そして感度が高い人ほど雑誌から情報を得ています。このCanCamの誌面の中に「次に訪れる流行」が詰まっているということを、広告を通して皆さまに伝えていきたいなと思っています。

【Interviewee】

小学館
マーケティング局 雑誌宣伝課 副課長
山田 卓司さん