Case: セガサミーカップ「キャディ ゴルゴル」

話題になった(=「バズった」)日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、今年7月に開催される「長嶋茂雄 INVITATIONAL セガサミーカップゴルフトーナメント」の大会第10回記念特別企画として実施されている「キャディ ゴルゴル」を取り上げます。キャディの格好をした女性が、ゴルフ場でのマナー啓発のためラップを歌い上げるという意外性抜群のこの企画。手がける株式会社I&S BBDO コンテンツディベロップメントグループ シニアクリエイティブディレクター 植村啓一さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人

「キャディがラップをしてマナーの悪いお客さんをぶった斬る」プレゼンの爆笑で手応え

—実施のきっかけを教えて下さい。

セガサミーホールディングスさん主催のゴルフトーナメント「セガサミーカップ」が今年第10回記念大会を迎えました。この10年でゴルフ人気は上がってきたものの若い層にはまだまだ届いていなくて、そういった層を取り入れていかないと「次の10年」に繋がっていかないのではないかと、若者を狙った話題喚起の施策を考えてほしいというお話を頂きました。

そして話題喚起の方法を幅広くお見せしました。研究結果も踏まえながら。その中のひとつで、“キャディがラップをしてマナーの悪いお客さんをぶった斬る”というリリック原案を書いて、その場で私が歌いました。それが爆笑になり(笑)今回のキャディゴルゴルになりました。

—まずはゴルフと直接関連のない、タバコや歩きスマホなどのマナーについて啓発するティザー動画をアップされましたが、こちらの狙いとしては。

きっと企業名や大会名を直接的に入れてしまうとそれだけでユーザーが離れてしまうと思ったので、あえて「どこかの誰かが面白動画を上げた」と素人が投稿した動画っぽく、新たに開設したチャンネル(キャディゴルゴルチャンネル)にアップしていきました。この時点でソーシャル上で影響力のある方などにも見つけて頂いたようで、SNS上でシェアしてくれたりもしました。

—「本編」となるラップを歌った動画の投入タイミングは、いつ頃を狙っていたのでしょう。

7月(3日〜6日)の大会開催から一ヶ月強前にはアップしておきたかったという狙いですね。

ヒップホップアーティストの指導のもと実際に歌唱。撮影ではキャディが結束

—登場するキャディさんのプロフィールがサイト上にも掲載されていますが、実際にオーディションされたのですか。

40代から70代まで100名近くの方をオーディションしました。顔が面白かったり、喋りが面白くても、ラップを歌う姿がどこまで面白いかっていうのはまた別で、実際にやってみないと分からないんですよね。なので「(プレゼンでも使った)このラップを、あなたの気分で歌ってみて下さい」と歌ってもらいました。皆さんもちろんやったがことない方々だったので即興で歌ってもらって。その中でもちゃんとアドリブで歌える方が、つまり今出ている方です。

—ラップ未経験にも関わらず動画ではとてもサマになっていますが、どのようにご指導されたのでしょうか。

3週間くらい特訓してもらいました。MaryJaneというヒップホップユニットで活動されているアーティスト・LUNAさんに全面的に指導してもらいました。最初LUNAさんにはスタジオに来て頂いて、どうやったらヒップホップらしく見えるかなど4時間くらい指導してくださったんです。その後、キャディには家でももちろん練習してきてもらって、翌週またLUNAさんにチェックして頂いて。

—LUNAさんからはどのようなアドバイスがあったのでしょうか。

とにかく腰を低く、背筋を伸ばすのではなく、重心を低くして歌うというところですね。ただどうしてもちゃんと歌わなきゃとなってしまい、おばちゃんは、これがなかなかうまくいかないんです。

—ということはキャディのお二人も実際に歌われたんですね?

そうですね、YouTube上の音源も全てLUNAさん含め全員で歌っています。当てふりだと面白くないし、この動画の為にマスターして頑張って歌っているのが面白いのではないかと思いました。

—LUNAさんをキャスティングされた経緯はどのようなものでしょうか。

マナーが悪いお客さんを”disる”内容なのでやはりヒップホップかなと。なかなか女性のラッパーさんはいないという中一緒になってやってくれるという方を探していたら、LUNAさんが「ラップの本物感を出すためにお手伝い出来るのなら」と面白がってやって頂けることになりました。まさかLUNAさんがそこまで立会って頂けるなんて思っていなかったのですが、楽曲提供から出演、録音まで立会って頂けました。

—歌詞はどのように制作されたのでしょうか。

元々私たちクリエイティブスタッフで議論し箇条書きしたものをLUNAさんにお渡ししました。箇条書きの内容はゴルフをしない方でも「そうなんだ」と分からないといけないので、普段ゴルフをしないスタッフも交えて決めていきました。

—ヒップホップの動向など、音楽周りのリサーチはされましたか。

特にラップの部分、尺の長さなどは研究しました。といいつつ「キャディ ゴルゴル」はただのPVではないので、研究はしながらですけれど、マナーの悪いお客さんにキャディがドロップキックを入れる「つかみ」をどうするかなど、「面白カッコいい」際どいところを狙いました。

この際どいバランスをどうとるか、監督と話しながら整えていきましたね。最初はまるで有名アーティストのPVのような「カッコいい」ものという案もありましたが、元々知られていない人のものがそこまでカッコよくても「カッコいいねー」だけで終わってしまうので。

—ロケはどちらで行いましたか。

ロケ場所は、秘密です(笑)。どこかのゴルフ場で丸2日間行いました。このお仕事は、本当にキャディの2人に助けられました。あの2人が頑張ってくれなかったらここまで上手く出来なかったと思っています。実は裏話があって、今回監督が厳しい方で、甘やかさずにプレッシャーをガンガンかけていくタイプだったんですね。それでどうもキャディの2人はこの監督を本番でぎゃふんと言わせてやろうと(元々知らない同士でも)結束して、一緒に覚えたりしていたみたいです。

またお2人は、朝はアドリブ全開で前のめりですが、だんだん夕方になると体力が落ちてきてテンションが変わってくるんですね。体力的なものはどうしようもないですから、我々も「ちゃんと見てるよ」ということが伝わるようにしたり、盛り上げたりしていました。2日間まるまる徹夜状態だったので、僕らも見ながら応援している気分でした。

—動画告知の方法はどのようになさいましたか。

SNSでの告知はもちろん、YouTube広告も展開しました。その中でチャンネル登録を訴求していったら結構大きく登録ユーザー数が増えたので、そのタイミングを見て本編のアップも行いました。

歌詞テロップつきの「カラオケバージョン」も公開

消費者が様々なコンテンツに慣れてきている中、バイラル動画の今後は

—動画に対する反応はいかがでしょうか。

20代中盤くらいまでが主なターゲットですが。「おばちゃんがラップがうまいのはなんでだ」「(動画の最後にロゴが出るので)久々に最後まで広告を見てしまった」などといった良い反応を頂いています。また今回は動画に対するコメントを可にしています。大会を運営している側でありながらも、コメントを受け付けるという勇気も良い反応に繋がっているのではないかと思います。

—動画視聴のターゲットは海外も含めて、あるいは国内のみ、どちらでしょうか。

今回は完全に国内に絞りました。目的は興味のない若者をゴルフへの興味関心、そして「セガサミーカップ」の認知と大会への誘導だったので。大会までに話題を作り、セガサミーカップを認知して頂くことが目的でした。

—今後の展開予定をお聞かせ下さい。

すいません、秘密です(笑)。みんなに楽しんでもらえるものが、少し用意されてます。みんなで歌ってもらえるといいな、と思っています。セガサミーカップの大会まで楽しみしていてください。

—最後に「バイラル動画」の今後についての考えをお聞かせ下さい。

これまでも様々なキャンペーンでネットでの動画企画は、色々制作させていただきました。結果が見えやすいということでは、再生回数が取り上げられることが多いと思います。でもそれだけではありません。消費者は様々なコンテンツに慣れてきていると思うので、YouTube内にあふれる広告ではないコンテンツの中に、我々の制作するコンテンツを「自然に」送り込むことはもっとハードルが上がっていくのではないでしょうか。

もっとその境界線がわからないものになっていくのではと思いますが、「面白かった、よかったね」で終わってしまうと使い古された手法になる恐れもあるので、その先にそのコンテンツがまた別な形でユーザーに楽しんでもらい、その結果が企業の価値に繋げられるシステムをいつも考えています。

【Interviewee】

株式会社I&S BBDO
コンテンツディベロップメントグループ
シニアクリエイティブディレクター
植村 啓一さん